僕は最近、頭から離れない言葉がある。

 『ペディさん』

 そんな言葉、聞いたことあるだろうか。少なくとも、僕は知らない。
 さんを付けた呼び方。人間だろうか。いや、人間以外にだって、さん付けはする。仮に人間だとして、ペディという名前。
 これは聞いたことが無い。男性なのか、女性なのか。はたまた未知の性別なのだろうか。
 いや、そもそも人ですらない可能性がある。
 
 僕は、会ったことすらない『ペディさん』に、悩まされていた―――


◇◇◇


 築50年の風化したアパートに、僕は住んでいる。
 二階に通じる階段はボロボロで、錆びついているだけではなく、穴が開いているのだ。そんなところを僕は、毎日毎日通っているのだ。
 その二階、二〇五号室に僕は住んでいる。

 ベッドから起き上がって、カーテンを開ける。
 勢いよく開けたカーテンから、陽が差し込む。窓ガラス越しにその熱は伝わって、体全体で暖かさを感じる。
 その暑さに、どこか心地よさを覚えて、うんと伸びをする。
 
 「いい朝だなぁ」

 そんなことを言ったが、時計を見ればもう11時。朝なんてとっくに昔にすぎていた。
 外では買い物に行く主婦が自転車に乗って、アパートの前を通り過ぎていった。
 さすがにこれを朝というのには無理があるな。
 部屋の隅にいたテディベアに「おはよう」と挨拶をしておく。

 ふと、僕は机の上に一冊の本(?)のようなものを見つけた。なんだっけこれ。
 近づいて見てみる。
 ああそうだった、日記だった。僕が毎日つけていた日記だった。
 読んでみようと、日記を持ち上げると、その下に一枚紙があった。
 アルバイト表と書かれたカレンダーのような紙だ。
 
 それによると、今日のバイトは休み。明日は午前9時から午後3時まで。今日は休みみたいだな。少しほっとした。
  
 さて、今日は何して過ごそうか……


◇◇◇


 気づけばもう8時。
 テレビを見ているだけで、時間はあっという間に過ぎていった。本を読もうと思っていたのだが、そんなことをする暇もなく、夜になってしまった。
 やはりテレビというものは偉大だな。

 さて、腹が減ったな。
 立ち上がって冷蔵庫を開けてみる。野菜、牛乳、ヨーグルト、むき出しで置いてあるカレールー……あんまりだな。冷凍庫のほうは、どうだろうか。