ー5年前ー

「おい、五十嵐。パン買ってこいよ」

何が楽しくてこんなくだらないことをしているんだろう。
毎日1人でいる男子を3人で集まっていじめている。
読書の邪魔になるからどこかに行ってほしい。

「ちょっと笹野さん、ここの宿題やっといてよ。」

わたしにも厄介な虫の女子が5人くらい来た。

「わたしの宿題じゃないんで」

どうせこんなこと言ったって聞かないんだろうなぁ。

「はぁ?別にやってくれたっていいじゃん」
「自分たちの宿題でしょ?しかも1週間前に配られていた宿題だよね?」

そう言い返すとリーダーみたいな女の子がノートをわたしの机に叩きつける。

「うちらこれから忙しいからよろしく」

本当に面倒くさいクラスに当たっちゃった。
高3の大事な時期にどうしてクラス替えなんかするんだろう。

はぁっと深いため息をついていると、他の男子や女子がわたしを見ている。
この雰囲気がたまらなく嫌いで教室を飛び出す。
風のように人と人の間をすり抜けるように走った。
 
そしていつもの場所につく。
わたしは誰もいない屋上が大好き。

本当は危ないから入るのは禁止されているけど、先生たちは甘い。
危ないというならどうして鍵はいつも開けっ放しなんだろう。

屋上で外の空気を吸うと、冬に移り変わりそうな冷たい空気がわたしの体中を駆け巡る。

お昼休みも終わりそうだし教室に戻ることにした。
またさっき来た道を引き返していると、偶然にもいじめの現場を見てしまった。

「ぼ、ぼ、僕の上靴どこ?」

「はぁ?しらねぇよ」

「あ、俺さっき五十嵐の上靴汚かったからゴミ箱
に捨てちまったよ」

「どうしてそんなことするの」
「いや、俺らは優しさでやってあげたんだから感謝くらい言えよ」

さっきの男子たちがまたいじめていた。
ボコボコに殴ったり蹴ったりしているけど、わたしは止めることなんかできなかった。
間近で見るのと遠くから見るのはやっぱり違いすぎる。

またわたしは逃げた。