作曲家になりたかったきみへ


数週間が経ったけど、未だに五十嵐くんのことから立ち直れなくて学校にも行けていない。
そろそろ行かないと、受験も近い大事な時期なのに。

「凛、ちょっと話そうか」

今日はお父さんも有給を使って休みを取ったらしい。

椅子に座ってお父さんと向い合せになる。
正直言って気まずい。

「これから凛はどうしたいんだ」
「わからない」

夢も希望も全てわたしの中から消え去った。

「そうか。もう凛のやりたいことやりなさい」

驚いて俯いていた顔をあげる。
お父さんは昔の大好きな優しい笑顔でわたしを見ていた。

「もう無理しなくていいよ。縛っていて悪かった。凛は優秀なんだから、何でもできるさ」

「本当にやりたいことやっていいの?」

まだ本当に決まったわけではないけど、五十嵐くんが残してくれたものをわたしは世の中に広めたい。

こんなに凄い人がいたんだぞって胸を張って言いたい。

「今まで頑張っていたから、自由になっても神様は罰をくださないよ」

「それじゃあ、お父さんは罰ばかりだね」

そう言うと、お父さんは肩をすくめて笑った。

机に置いてあったスマホが急に鳴り響く。
それは目を疑うような人からの電話だった。


『五十嵐 響姫』


すぐに出ると五十嵐くんではなくて、知らないおばさんの声だった。

「笹野さんでしょうか?響姫の母です」
「あ、そうですが…」

「良かった。今から携帯に住所を送るので、来てもらえませんか?」

ちらっとお父さんのほうを見ると、行きなさいとでも言うかのように頷く。

「分かりました」

そうして電話を切ったあと、程なくして住所が送られてきた。

「凛、行ってらっしゃい」
「行ってきます」

家を飛び出す。