放課後になって音楽室に行くと、五十嵐くんが眠っている。
何もすることがないし、ピアノの椅子に座って鍵盤を押す。
すると、ぽーんっと特に感情もこもっていないただの音が鳴り響く。
五十嵐くんと全く違う。
五十嵐くんが演奏すると、自身に満ち溢れた強い感情のときと、誰かを頼りたいときの不安な感情がピアノで表現できる。
そんな五十嵐くんは中途半端なわたしといるような人じゃない。
もっと世界で活躍できるような人なんだよ。
「五十嵐くん、好きになってごめんね」
口からぽろっとこぼれ落ちた。
はっとして五十嵐くんを見るとまだ寝ているようだった。
よかった。起きていたら、この関係も崩れるような気がする。
「……んぁ、ごめん。寝てた」
今もまだ焦点のあってない目でこちらを見ている。
「大丈夫だよ。ねぇ、ピアノ聴きたい」
「いいけど今から?」
首を縦にふると椅子に座って弾き始めてくれた。
久しぶりに五十嵐くんの演奏を聴く。
最初は何だか野原にいるような温かくてゆっくりとした曲調。
でも最後は激しい雷が鳴り響くかのような強い意志が感じた。
「やっぱり凄いね。今回は天気が良くて野原にいたら突然豪雨と雷がその街を壊していくような感じがした」
「そこまで想像できるなんて凄いなぁ。間違ってはないけど、合っているわけでもないかな」
「どこが違ってたの?合ってるように思えたんだけど」
「それは最後だよ。凛ちゃんの想像はほとんど合っていた。でも最後は雷や雨が終わって、平和が戻るような感じ」
なるほど。想像の世界はいつだってわたしを夢中にさせてくれる。
「その曲はいつ頃作ったの?」
五十嵐くんは自作の曲しか弾かない。
「最近作った曲なんだ。この曲が1番のお気に入り」
見た感じでも分かる。
この曲を弾いていた五十嵐くんは全身でピアノを楽しんでいて、いきいきとしていた。
「その曲、どこかの会社に出してみなよ!絶対合格すると思うな」
「無理だよ。もっと凄い人がたくさんいるだろうし」
何でここまで謙虚なんだろう。
自身を持って出してもいいのに。