何分経っただろうか。
ゆっくりまぶたを上にあげると、さっきまでいた公園の変わらない風景が視界に入り込んでくる。
あぁ、お母さんの元に行けなかったか。
目を下に向けると、さっきカミソリで切った手首に包帯が丁寧に巻かれている。
隣を見ると五十嵐くんが座っていた。
「どうして君が隣りにいるの?」
「何してんの笹野さん!どうして死のうとしたの」
初めて五十嵐くんの怒る姿を見た。
「もう疲れたの。いくら頑張ってもお父さんには褒めてもらえないし、何のために勉強しているのかも分からない。あと、お母さんに会いたかった」
「そんなことしてもお母さんには会えないよ」
五十嵐くんの正論が今は痛いほど胸に刺さる。
「そんなことくらい分かってるよ!でもどうしたら良いの?学校ではいじめられて、家に帰れば全ての家事をやらされて、勉強は最低でも90点。もう嫌だ!」
初めて自分の気持ちを大声で言った。
すっきりはしたけど、関係のない五十嵐くんに当たってしまった。
「そっか。笹野さん辛かったね。よく頑張ったね」
五十嵐くんは静かにわたしを抱きしめてくれた。
人の温かみを感じて張り詰めていた緊張の糸は簡単にプツンと音を立てて切れた。
冷たい雨が降りしきる中、五十嵐くんの胸でわたしは泣き続けた。