むしゃくしゃした気分のままいつものたまり場に顔を出すと、相変わらず見たような見たこともないような連中が、近所の連中から迷惑そうな顔を向けられていた。
その輪の中に入り、特に何をするわけでもなくぼんやりと連中たちを眺めてみる。仲間や友達と呼べるか微妙な関係だが、どうでもいいやりとりしかしていないから、多分普通の友達関係とは呼べないだろう。
「鷹広君、また憂鬱モード?」
何をすることもなくスマホをいじり始めたところで、モヒカンがにやけた顔で声をかけてきた。何かいいことがあったのか知らないが、俺の近づくなオーラを無視して隣に座りこんだ。
「お前はやけに上機嫌だな」
「わかる? 実はさ、長谷川先輩に女の子を紹介してもらったんだよ。この前、無理して時計をパクって正解だったよ」
上機嫌に語るモヒカンが、輪の中にいる女の子を指さした。金髪に極端なミニスカートの女の子が手を振り返したのを見て、俺はどっと疲れが肩にのしかかってきた。
「お前、あの店で時計をやるのはやめとけと言ったよな?」
苛立ちを声に含めてモヒカンにぶつけると、モヒカンの顔から笑みが消えた。
「なんで? 別にいいじゃん」
「馬鹿、あの店は高額商品をシリアルナンバーで管理してるかもしれないって言っただろ。ったく、パクった物は大丈夫なんだろうな?」
「それは大丈夫だよ。いくら俺でもそこまで馬鹿じゃないから」
不満顔のモヒカンが、いつにもなく声を荒げた。彼女の前ではいきがっていたい気持ちはわかるが、その短絡的な考えのおかげで警察に捕まるのはごめんだった。
「もし、長谷川先輩が盗品の時計をつけた状態で職質されてみろ。シリアルナンバーがあったら、俺たちは芋づる式だぞ。お前も、リーチがかかっているのはわかってるよな?」
基本的に、警察の職務質問は逃げることができない。特にやましいことがある場合、警察がそれを見逃すことはありえないからだ。万一、調べたら一発でわかるような盗品を所持していたら、警察が追及の手を緩めることなど皆無に等しかった。
それに、これまで捕まった大半のきっかけは警察の職務質問だった。仲間の一人が職務質問によって連行されると、後は芋づる式に関与した連中が逮捕されることになる。どんなにいきがっている奴でも、取調室に入った途端に泣きながら洗いざらい喋るのがオチだから、仲間とはいえ一切信用はできなかった。
「わかってるよ。俺だって、次は少年院行きだってことぐらいわかってるから」
鼻息を荒くしていたモヒカンの声が、狼を前にした羊のように震えだした。この調子だと、盗品にシリアルナンバーがあるのは五分五分といった感じだった。
「話は変わるが、お前はいつまでこんなことをやるつもりだ?」
シリアルナンバーがあるかどうか考えたところでどうにもならないことをさとった俺は、仕方なく無理矢理話題を変えた。
「またその話?」
「どういう意味だ?」
「この前も言ってたよね? 何の為に生きてるのかって。ねえ、鷹広君、最近どうしちゃったの?」
俺の小言が終わったことに安堵したのか、モヒカンが煙草に火をつけながら固くした表情を弛ませた。
「どうって、別に」
「いや、絶対変だよ。いつもはさ、何か触れたらぶっ飛ばすみたいなオーラ全開なのに、ここ最近、何か悩んでいるようにしか見えないんだけど」
モヒカンの言葉に、なぜか反論する言葉が喉に詰まってしまった。言われてみたら、確かにここ最近は何か考えていることが多いような気がした。
その原因として真っ先に思い浮かんだのは、美優の存在だった。顔もみたことのないただの同級生。手紙のやりとりを何度かしただけなのに、なぜか美優のことがいつも気になって仕方がなかった。
「なあ、お前は間もなく死ぬってなったらどうする?」
モヒカンのからみはうざかったが、ふと、思いついた疑問が頭から離れなくなったせいで、つい言葉がもれてしまった。
「なに? 鷹広君間もなく死ぬ気なの?」
「馬鹿、死ぬわけないだろ。いいから茶化さずに答えろよ」
「わかったよ。死ぬのがわかってるとしたら、俺なら大金盗んでいい女と派手に遊び回るかな」
モヒカンの罪悪感ゼロの欲望丸出しの答えに、俺は「だよな」と同意して笑った。
「けどよ、もし、体が不自由だったらどうする? やりたいことがあってもできないまま死ぬとしたらどう思う?」
「何にもできずに死ぬのは嫌かな。俺だったら気が狂うかも」
何のひねりもないモヒカンの答えに、俺は質問したことも、イカれたモヒカンなら何かとんでもない答えを出すんじゃないかと期待したことを後悔した。
「あいつら、本当に馬鹿だよな」
「え?」
「ここにいる連中のことさ。馬鹿みたいに強がって、本当は弱いくせに偉そうにしやがって。マジで全部ぶっ壊したくなる」
ロータリーで騒ぐ連中の甲高い声に耳が痛くなった俺は、苛立ちを隠すことなくモヒカンにぶつけた。
時々、ふとした瞬間に何もかもぶち壊したくなる時がある。家、学校、仲間といった俺を取り囲む全てをぶっ壊したら、この世界は消えてなくなるんじゃないかと思う瞬間が最近は増えた気がした。
「そうなんだ。でもさ、鷹広君も一緒じゃん」
「あ?」
「なんかさ、俺は違うみたいな雰囲気出してるけど、鷹広君も十分ここにいる連中と同じだと思うけど」
モヒカンが煙草を投げ捨てながら立ち上がると、感情も抑揚もない声で吐き捨ててきた。
その言葉に苛ついた俺は、立ち上がってモヒカンの胸ぐらを掴もうかと考えた。
だが、結局はできなかった。
俺を見下ろすモヒカンの哀れんだ瞳のどす黒さに、俺は言葉を返すこともできずに目をそらすことしかできなかった。
その輪の中に入り、特に何をするわけでもなくぼんやりと連中たちを眺めてみる。仲間や友達と呼べるか微妙な関係だが、どうでもいいやりとりしかしていないから、多分普通の友達関係とは呼べないだろう。
「鷹広君、また憂鬱モード?」
何をすることもなくスマホをいじり始めたところで、モヒカンがにやけた顔で声をかけてきた。何かいいことがあったのか知らないが、俺の近づくなオーラを無視して隣に座りこんだ。
「お前はやけに上機嫌だな」
「わかる? 実はさ、長谷川先輩に女の子を紹介してもらったんだよ。この前、無理して時計をパクって正解だったよ」
上機嫌に語るモヒカンが、輪の中にいる女の子を指さした。金髪に極端なミニスカートの女の子が手を振り返したのを見て、俺はどっと疲れが肩にのしかかってきた。
「お前、あの店で時計をやるのはやめとけと言ったよな?」
苛立ちを声に含めてモヒカンにぶつけると、モヒカンの顔から笑みが消えた。
「なんで? 別にいいじゃん」
「馬鹿、あの店は高額商品をシリアルナンバーで管理してるかもしれないって言っただろ。ったく、パクった物は大丈夫なんだろうな?」
「それは大丈夫だよ。いくら俺でもそこまで馬鹿じゃないから」
不満顔のモヒカンが、いつにもなく声を荒げた。彼女の前ではいきがっていたい気持ちはわかるが、その短絡的な考えのおかげで警察に捕まるのはごめんだった。
「もし、長谷川先輩が盗品の時計をつけた状態で職質されてみろ。シリアルナンバーがあったら、俺たちは芋づる式だぞ。お前も、リーチがかかっているのはわかってるよな?」
基本的に、警察の職務質問は逃げることができない。特にやましいことがある場合、警察がそれを見逃すことはありえないからだ。万一、調べたら一発でわかるような盗品を所持していたら、警察が追及の手を緩めることなど皆無に等しかった。
それに、これまで捕まった大半のきっかけは警察の職務質問だった。仲間の一人が職務質問によって連行されると、後は芋づる式に関与した連中が逮捕されることになる。どんなにいきがっている奴でも、取調室に入った途端に泣きながら洗いざらい喋るのがオチだから、仲間とはいえ一切信用はできなかった。
「わかってるよ。俺だって、次は少年院行きだってことぐらいわかってるから」
鼻息を荒くしていたモヒカンの声が、狼を前にした羊のように震えだした。この調子だと、盗品にシリアルナンバーがあるのは五分五分といった感じだった。
「話は変わるが、お前はいつまでこんなことをやるつもりだ?」
シリアルナンバーがあるかどうか考えたところでどうにもならないことをさとった俺は、仕方なく無理矢理話題を変えた。
「またその話?」
「どういう意味だ?」
「この前も言ってたよね? 何の為に生きてるのかって。ねえ、鷹広君、最近どうしちゃったの?」
俺の小言が終わったことに安堵したのか、モヒカンが煙草に火をつけながら固くした表情を弛ませた。
「どうって、別に」
「いや、絶対変だよ。いつもはさ、何か触れたらぶっ飛ばすみたいなオーラ全開なのに、ここ最近、何か悩んでいるようにしか見えないんだけど」
モヒカンの言葉に、なぜか反論する言葉が喉に詰まってしまった。言われてみたら、確かにここ最近は何か考えていることが多いような気がした。
その原因として真っ先に思い浮かんだのは、美優の存在だった。顔もみたことのないただの同級生。手紙のやりとりを何度かしただけなのに、なぜか美優のことがいつも気になって仕方がなかった。
「なあ、お前は間もなく死ぬってなったらどうする?」
モヒカンのからみはうざかったが、ふと、思いついた疑問が頭から離れなくなったせいで、つい言葉がもれてしまった。
「なに? 鷹広君間もなく死ぬ気なの?」
「馬鹿、死ぬわけないだろ。いいから茶化さずに答えろよ」
「わかったよ。死ぬのがわかってるとしたら、俺なら大金盗んでいい女と派手に遊び回るかな」
モヒカンの罪悪感ゼロの欲望丸出しの答えに、俺は「だよな」と同意して笑った。
「けどよ、もし、体が不自由だったらどうする? やりたいことがあってもできないまま死ぬとしたらどう思う?」
「何にもできずに死ぬのは嫌かな。俺だったら気が狂うかも」
何のひねりもないモヒカンの答えに、俺は質問したことも、イカれたモヒカンなら何かとんでもない答えを出すんじゃないかと期待したことを後悔した。
「あいつら、本当に馬鹿だよな」
「え?」
「ここにいる連中のことさ。馬鹿みたいに強がって、本当は弱いくせに偉そうにしやがって。マジで全部ぶっ壊したくなる」
ロータリーで騒ぐ連中の甲高い声に耳が痛くなった俺は、苛立ちを隠すことなくモヒカンにぶつけた。
時々、ふとした瞬間に何もかもぶち壊したくなる時がある。家、学校、仲間といった俺を取り囲む全てをぶっ壊したら、この世界は消えてなくなるんじゃないかと思う瞬間が最近は増えた気がした。
「そうなんだ。でもさ、鷹広君も一緒じゃん」
「あ?」
「なんかさ、俺は違うみたいな雰囲気出してるけど、鷹広君も十分ここにいる連中と同じだと思うけど」
モヒカンが煙草を投げ捨てながら立ち上がると、感情も抑揚もない声で吐き捨ててきた。
その言葉に苛ついた俺は、立ち上がってモヒカンの胸ぐらを掴もうかと考えた。
だが、結局はできなかった。
俺を見下ろすモヒカンの哀れんだ瞳のどす黒さに、俺は言葉を返すこともできずに目をそらすことしかできなかった。