「あ。オレじゃないよ」
小倉が、違う違うと手を振って否定した。
「え。違うの?」
「じゃあ、なに?」
木崎と俺がほぼ同時に口を開いた。
どうやら小倉の浮気相手ではないらしい。
木崎と顔を見合わせる。
じゃあ、何に対しての「ギリ、セーフ」なんだ。ただ単に、待ち合わせ時間にギリギリ間に合ったというだけなら、面白くもなんともない。
「汐音なんだってば」
小倉が俺を指さすと、隣の彼女が恥ずかしそうに頷いた。
「俺?」
「そう」
「え?汐音?」
「うん」
真っ黒なストレートの髪。制服のスカートはきちんと膝を隠し、白いソックスはくるぶしが見えるか見えないかという微妙な長さ。
「……中、学生」
だろ。よく見たら。
「あ、の、……と、……ら、」
モゴモゴと喋る中学生の声は周囲の雑音にかき消されてしまう。
「え。なに、汐音なの?汐音がいいの?」
いや。俺の肩に手を置いた木崎の声が大きいせいだ。耳のそばで騒ぐな。
「ていうか、」
相手が中学生となれば話は別だ。
俺に用があるとか、正直そんなのどうでもいい。それよりも、この中学生と小倉の関係のほうが気になる。まさか、ね。「ギリ、セーフな関係」だなんて、訳の分からない表現でうやむやにしてほしくない。