初めて連絡を入れず、学校をサボってしまった。いつもいつも逃げ出したいと思っていたのに、私はお母さんが心配するから学校に行かなくちゃ…という思いで負けじと学校へは行っていた。
それでもそうしていざサボってみると、あまり〝やってしまった…〟という感情は無く。
泣き止んだ時、広い空と太陽を見てとても清々しい気持ちになった。だって今日はもう虐められることは無いんだから。
だけども今は平日の真昼間。普通なら学校があるから。こうして外をぶらぶらしていたら補導員に捕まってしまうかもしれない、そう思ったから。
私は電車に乗った。
春が近いのに、暖房が入っている電車内は、凄くモヤモヤとして空気が悪く。
少し換気がほしい車内は、まるで虐められている最中の私みたいだった。
私がいま乗っている電車は、ぐるぐると同じところを回るようで。世間で〝外回り〟と呼ばれる電車の移動。
こんなにも空気が悪いというのに、私はそれにずっと乗っていた。そうすれば補導されることはきっと無いと思ったから…。
けれどもずっと電車に乗るっていうのは、腰やおしりが痛くなるもので、乗り始めて2時間が過ぎた時、私は名前も知らない駅でおりた。
改札を通り、私は空を見上げた。
何も知らない土地。
きっと誰も私のことを知らない。
そう思えば、凄く息がしやすくなった。
それでも、
「あれ、やっぱそうだ!亜紀じゃない?!」
私のことを誰もしらないはずなのに、私のすぐそばで、私の名前が出てきて飛び上がるように肩が動いた。
「ねっ、そうでしょ?!」
さらりとした長い金髪が、靡いた。
目の周りが真っ黒で。
〝彼女〟たちと同じ風貌をしているその人が私の顔を覗き込んできたからか、一瞬にして背中に汗が流れた、けど。
〝彼女〟たちは、私を亜紀とは呼ばない…。それにその人が着ている制服は、全く見覚えがない。
だから〝彼女〟たちとは違うと分かったけど、全く誰か分からない私の背中は汗をかいたまま。
「え!うそ、分かんない? 私私!佳代だよ!水森佳代!」
私が分からない顔をしているのか、名前を名乗ってきた。その名前を聞いて、え?と思ったけど。
「佳代?」
「そうそう!」
「え?かよち?」
「そうだよその〝かよち〟!やっぱ亜紀じゃん久しぶり〜っ!」
にこにこと、ハイタッチを求めてくる佳代に、私も自然と両手を上げていた。
佳代は、小学生以来の友達だった。
とはいっても、私が小学生3年生の時に今の地域に引っ越して、離れ離れになったのだけれど。
「酷いよォ、分からないなんて!」
「分からないよっ、ギャルになってる!」
「やっぱり?すっぴんと違うってよく言われる〜」
あははっ、と、わらう彼女には、確かに面影はあった。