だけどそういうことも長く続けらるわけではない。


保健室は先生がいなければ鍵がかけられているし、図書室も本の整理のために閉まっていることがある。


そうなると舞は完全に行き場をなくし、C組に戻ってこざるを得なくなる。


教室の真ん中の机に座って誰とも会話せずに、必死で文庫本を読み続ける。


その時間は拷問のようだ。


だからこの帰宅時間は舞にとって幸福とも呼べる時間だった。


自分のペースで自分の好きなように帰宅することができる。


もちろん帰ってからも自分の時間が続いていく。


次の朝がくるまで、舞が最も舞らしくいられる時間だ。


学校から2キロの距離にある集合住宅の前で舞はカバンから鍵を取り出した。


小学校1年生頃から鍵につけられているマスコット人形は、白い兎。


ただその色はすでに黒くなっていて耳は半分取れかけている。


また縫い付けておかないと。


そう思いながら玄関の鍵を開けて中に入る。