「ふぃ~、終わったぁ~。」
後の授業をほとんど寝て過ごし、やっと7時限目終了のチャイムが鳴った。
帰りのホームルームの担任の話を全て聞き流しながら颯爽と帰り支度を済ませる。今日は部活が休みだから、早く家に帰れるのだ。
本当なら帰って勉強しないとこの学校にはついていけないのだが、俺の予定はゲームで埋まっていた。
そんな時…
「お、もう帰るの?」
と声がした。振り向かずとも誰かわかる。
「今日は部活がないからな。」
「そうなんだ、珍しいね。」
なるべく早く帰りたい俺に容赦なく話しかけてきたこいつは、幼馴染の岡野(おかの)ゆいだ。こいつとはまあ、いわゆる腐れ縁ってやつだな。もう8年くらいの付き合いになるのだが。
「暇なら一緒に帰るか?」
「いや、私部活」
「何部だっけ?」
「前言ったじゃん!吹奏楽部だよー。ちなみにトランペットね。」
「ふーん、音楽はあんまわかんないからまあいいや。とりま頑張れ。」
「なんか適当だなあ。」
口をすぼめるゆいを尻目に俺は教室を出た。
そして俺は靴箱まで来て割とマジで絶望することになる。
「雨…」
そう、雨が降っていた。しかも、小雨ではない。まるで滝のように雨が降っている。それに加えて風もかなり強い。俺でも踏ん張ってなきゃ重心持っていかれるレベルだ。
「台風なんて来てたっけ…」
この雨に対して俺には傘ひとつない。折り畳み傘すらない。
「終わった…」
とか口では言いながらも俺は、気休めにもならないタオルを頭の上にセットし、豪雨の中へ飛び出した。
この時友達に入れてもらうという選択をしなかったことを、俺は後々後悔することも知らずに。
走り出して3分くらい経った頃。あと少しでバス停にたどり着く。こんなずぶ濡れでバスに乗ったらどんなに周りの乗客に迷惑がかかるかということも考えられないくらいマジで走っていた。
そんな時、少し前を歩いていた女の子が目に入る。小学1~2年生くらいだろうか。そんな華奢×5みたいな少女がこんな暴風と豪雨の中歩いているだけでも何か嫌な予感がした。
「絶対やばいだろ。」
そう思った時には少女の右手から、小さなピンク色の傘が離れていた。傘は風に従って車道へと勢いよく飛ばされる。少女は短く悲鳴を上げた後、慌てて傘を足りに行こうと車道へと飛び出した。
「何やってんだあいつ…!」
無慈悲にも1番聞きたくない大きな音が、少し大きめの道路に長く長く響き渡る。
少女の少し左を見てみれば、大きめの車。車種についてあまり詳しくないが、デカイワゴンといったところか。あんなのに轢かれたら余裕で死ねる。
そんなことを考えながら、体が勝手に動いていた。
俺は気がついたら少女を反対側の歩道へと突き飛ばしていた。多少怪我をしてしまうかもしれないが、まあそれは仕方ないだろう。
刹那——
俺の視界の端には黒いワゴン車。
ああ、終わった。
人生終わったわ。この車結構スピード出てるし、俺には逃げる時間は1瞬もない。俺が死んだ後は、少女を救ったヒーローみたいな感じでテレビで流してくれるのかな。
そんなことを考えていると、重力の何倍もの力を左から受ける。そして野球によってかなり鍛えられたこの体が、あっけなく宙を舞った。麻痺しているのか、まだ痛みを感じない。
数秒後、地面に叩きつけられる。ここら辺から激痛と呼ぶには甘っちょろいほどの痛みが全身に響く。
べきべきと身体中から骨が折れる音が聞こえる。まだ意識は消えないが、少しずつ視界が暗くなってくる。
ああ、これが死か。
自分の腕がありえない方向にねじ曲がっているのが見えて思わず目を逸らそうとしたが、もう首は動かなかった。
「早く救急車を!」
男の怒号が聞こえてきた頃、これまでなんとか保っていた意識も、ついに途切れた—
後の授業をほとんど寝て過ごし、やっと7時限目終了のチャイムが鳴った。
帰りのホームルームの担任の話を全て聞き流しながら颯爽と帰り支度を済ませる。今日は部活が休みだから、早く家に帰れるのだ。
本当なら帰って勉強しないとこの学校にはついていけないのだが、俺の予定はゲームで埋まっていた。
そんな時…
「お、もう帰るの?」
と声がした。振り向かずとも誰かわかる。
「今日は部活がないからな。」
「そうなんだ、珍しいね。」
なるべく早く帰りたい俺に容赦なく話しかけてきたこいつは、幼馴染の岡野(おかの)ゆいだ。こいつとはまあ、いわゆる腐れ縁ってやつだな。もう8年くらいの付き合いになるのだが。
「暇なら一緒に帰るか?」
「いや、私部活」
「何部だっけ?」
「前言ったじゃん!吹奏楽部だよー。ちなみにトランペットね。」
「ふーん、音楽はあんまわかんないからまあいいや。とりま頑張れ。」
「なんか適当だなあ。」
口をすぼめるゆいを尻目に俺は教室を出た。
そして俺は靴箱まで来て割とマジで絶望することになる。
「雨…」
そう、雨が降っていた。しかも、小雨ではない。まるで滝のように雨が降っている。それに加えて風もかなり強い。俺でも踏ん張ってなきゃ重心持っていかれるレベルだ。
「台風なんて来てたっけ…」
この雨に対して俺には傘ひとつない。折り畳み傘すらない。
「終わった…」
とか口では言いながらも俺は、気休めにもならないタオルを頭の上にセットし、豪雨の中へ飛び出した。
この時友達に入れてもらうという選択をしなかったことを、俺は後々後悔することも知らずに。
走り出して3分くらい経った頃。あと少しでバス停にたどり着く。こんなずぶ濡れでバスに乗ったらどんなに周りの乗客に迷惑がかかるかということも考えられないくらいマジで走っていた。
そんな時、少し前を歩いていた女の子が目に入る。小学1~2年生くらいだろうか。そんな華奢×5みたいな少女がこんな暴風と豪雨の中歩いているだけでも何か嫌な予感がした。
「絶対やばいだろ。」
そう思った時には少女の右手から、小さなピンク色の傘が離れていた。傘は風に従って車道へと勢いよく飛ばされる。少女は短く悲鳴を上げた後、慌てて傘を足りに行こうと車道へと飛び出した。
「何やってんだあいつ…!」
無慈悲にも1番聞きたくない大きな音が、少し大きめの道路に長く長く響き渡る。
少女の少し左を見てみれば、大きめの車。車種についてあまり詳しくないが、デカイワゴンといったところか。あんなのに轢かれたら余裕で死ねる。
そんなことを考えながら、体が勝手に動いていた。
俺は気がついたら少女を反対側の歩道へと突き飛ばしていた。多少怪我をしてしまうかもしれないが、まあそれは仕方ないだろう。
刹那——
俺の視界の端には黒いワゴン車。
ああ、終わった。
人生終わったわ。この車結構スピード出てるし、俺には逃げる時間は1瞬もない。俺が死んだ後は、少女を救ったヒーローみたいな感じでテレビで流してくれるのかな。
そんなことを考えていると、重力の何倍もの力を左から受ける。そして野球によってかなり鍛えられたこの体が、あっけなく宙を舞った。麻痺しているのか、まだ痛みを感じない。
数秒後、地面に叩きつけられる。ここら辺から激痛と呼ぶには甘っちょろいほどの痛みが全身に響く。
べきべきと身体中から骨が折れる音が聞こえる。まだ意識は消えないが、少しずつ視界が暗くなってくる。
ああ、これが死か。
自分の腕がありえない方向にねじ曲がっているのが見えて思わず目を逸らそうとしたが、もう首は動かなかった。
「早く救急車を!」
男の怒号が聞こえてきた頃、これまでなんとか保っていた意識も、ついに途切れた—