その日から僕の生活は一変した。
彼女は逢魔ヶ時と丑三つ時。つまり夕方と午前2時から2時30分までの間のみ、存在が強まり、僕にも見えるようになるらしい。僕の霊感はあるにはあるが弱いらしく、それ以外の時間は彼女を見ることは出来ないそうだ。
僕はその二つの時刻に美術室に訪れるようになっていた。この学校に美術部は無く、美術教師もいないため夕方も普通に話すことが出来る。夜は一度帰ってから忍び込むようにしている。古くから存在するこの学校はあらゆる所に偉大な先人達が残した侵入経路がある。その侵入経路は彼女に教えて貰った。
夜中に動き回っているため、必然的に日中、眠くなる。それまで真面目に授業を受けていた僕が突然、授業中に寝ることが多くなったため教師達は驚いていたが僕に取ってはそんなことはどうでも良かった。
友人達と遊ぶ機会も少なくなり、次第に離れていった。元々、付き合いだけで一緒にいたので僕にとってはどうでも良かった。
それよりも僕は彼女と話す方が楽しかった。彼女は僕の知らない話を、心躍る話をしてくれる。それがたまらなく楽しかった。
その時から僕の世界は色づき始めた。
ある夜。いつものように美術室を訪れる。そして、いつもの様に話している途中で彼女は僕にしてほしいことがあると言ってきた。
「してほしいこと?」
「うん。私に世界を見せて」
「世界? でも君はここから動けないんだろ?」
「だからさ、君がいろんな風景やものを持ち帰って私に見せてよ。ね? いいでしょ?」
「え~、でもどうやって?」
「風景は写真で! そしてそして! 私にいろんな話を聞かせて! 私にいろんなものを見せて!」
いつになく元気な声で彼女はそう言った。
僕はカメラなんて持ってないし、そもそもお金が無い。
「それ、僕、お金から貯め始めなきゃいけないじゃん」
「うん! がんばって!」
彼女は体の前で拳を作り、擬態語をつけるなら「ふんすっ」といった感じの仕草で僕に言う。
僕はこんなにうれしそうに話をする彼女を見たのは初めてで、その表情をもっと見たいと思った。
「・・わかった。頑張るよ」
「ほんと!? ありがとう!」
彼女はそう言って僕に抱きつく。存在が強まる逢魔ヶ時と丑三つ時は霊に触れることも可能なのだとこのとき初めて知った。
それから僕はバイトを始めた。時給の高かったファミレスで働き始めた。親からは特に止めるようなことは言われず、ただ一言、「責任を持って臨め」とだけ言われた。
それからは日々の忙しさに忙殺されそうになりながら必死にあがいた。
カメラを手に入れることが出来てからは週五で入れていたバイトを週三に減らして、土日は遠出をした。少し都会の方に行って流行りの食べ物を撮って帰ったり、星空がよく見える展望台や雲海がみられる神社に行ったりもした。
その写真を撮って帰り、現像して彼女の元へ持って行く。そこであった事を話したり、持って帰ってきたお土産の数々を見せたりしながら彼女の輝くような笑顔をこっそり撮影したりした。
ある日、夜に家を出て行こうとすると玄関前で後ろから声を掛けられた。
「あんた。なんかいいことでもあった?」
話しかけてきたのは母だった。いつもなら寝ている時間だっただけに少し驚きながら振り返る。
「・・特にないよ」
「うそだね。最近のあんたの目を見れば分かるよ。キラキラして輝いている」
「そうかな。僕には分からないや」
「ま、そのうちわかるよ」
意味深な言葉を言った後、母は死ぬなよと言いながら戻って行った。
玄関から出たあと少し考える。
母は僕の目がきらめいていると言った。もしそれが本当ならそれは彼女のおかげだ。
彼女の目が優しく細くなるたびに心が温かくなる。微笑むたびに幸せな気持ちになる。もっと見たいと思う。
彼女の一挙一動に心が動かせられる。彼女が満天の星空のように輝いた笑顔を見せるたびに心が跳ねる。
ああ、こんな気持ちになったのは初めてだ。
こう言う気持ち世間ではなんて言うのかな。
憧れ? 違う。恋? それでは少し安っぽい。
・・・・ああ、分かった。これは愛と言うんだ。
ただ彼女と一緒にいたい。彼女と共に笑っていたい。
僕のそんな願望とは無関係に別れの時期は迫っていた。
彼女は逢魔ヶ時と丑三つ時。つまり夕方と午前2時から2時30分までの間のみ、存在が強まり、僕にも見えるようになるらしい。僕の霊感はあるにはあるが弱いらしく、それ以外の時間は彼女を見ることは出来ないそうだ。
僕はその二つの時刻に美術室に訪れるようになっていた。この学校に美術部は無く、美術教師もいないため夕方も普通に話すことが出来る。夜は一度帰ってから忍び込むようにしている。古くから存在するこの学校はあらゆる所に偉大な先人達が残した侵入経路がある。その侵入経路は彼女に教えて貰った。
夜中に動き回っているため、必然的に日中、眠くなる。それまで真面目に授業を受けていた僕が突然、授業中に寝ることが多くなったため教師達は驚いていたが僕に取ってはそんなことはどうでも良かった。
友人達と遊ぶ機会も少なくなり、次第に離れていった。元々、付き合いだけで一緒にいたので僕にとってはどうでも良かった。
それよりも僕は彼女と話す方が楽しかった。彼女は僕の知らない話を、心躍る話をしてくれる。それがたまらなく楽しかった。
その時から僕の世界は色づき始めた。
ある夜。いつものように美術室を訪れる。そして、いつもの様に話している途中で彼女は僕にしてほしいことがあると言ってきた。
「してほしいこと?」
「うん。私に世界を見せて」
「世界? でも君はここから動けないんだろ?」
「だからさ、君がいろんな風景やものを持ち帰って私に見せてよ。ね? いいでしょ?」
「え~、でもどうやって?」
「風景は写真で! そしてそして! 私にいろんな話を聞かせて! 私にいろんなものを見せて!」
いつになく元気な声で彼女はそう言った。
僕はカメラなんて持ってないし、そもそもお金が無い。
「それ、僕、お金から貯め始めなきゃいけないじゃん」
「うん! がんばって!」
彼女は体の前で拳を作り、擬態語をつけるなら「ふんすっ」といった感じの仕草で僕に言う。
僕はこんなにうれしそうに話をする彼女を見たのは初めてで、その表情をもっと見たいと思った。
「・・わかった。頑張るよ」
「ほんと!? ありがとう!」
彼女はそう言って僕に抱きつく。存在が強まる逢魔ヶ時と丑三つ時は霊に触れることも可能なのだとこのとき初めて知った。
それから僕はバイトを始めた。時給の高かったファミレスで働き始めた。親からは特に止めるようなことは言われず、ただ一言、「責任を持って臨め」とだけ言われた。
それからは日々の忙しさに忙殺されそうになりながら必死にあがいた。
カメラを手に入れることが出来てからは週五で入れていたバイトを週三に減らして、土日は遠出をした。少し都会の方に行って流行りの食べ物を撮って帰ったり、星空がよく見える展望台や雲海がみられる神社に行ったりもした。
その写真を撮って帰り、現像して彼女の元へ持って行く。そこであった事を話したり、持って帰ってきたお土産の数々を見せたりしながら彼女の輝くような笑顔をこっそり撮影したりした。
ある日、夜に家を出て行こうとすると玄関前で後ろから声を掛けられた。
「あんた。なんかいいことでもあった?」
話しかけてきたのは母だった。いつもなら寝ている時間だっただけに少し驚きながら振り返る。
「・・特にないよ」
「うそだね。最近のあんたの目を見れば分かるよ。キラキラして輝いている」
「そうかな。僕には分からないや」
「ま、そのうちわかるよ」
意味深な言葉を言った後、母は死ぬなよと言いながら戻って行った。
玄関から出たあと少し考える。
母は僕の目がきらめいていると言った。もしそれが本当ならそれは彼女のおかげだ。
彼女の目が優しく細くなるたびに心が温かくなる。微笑むたびに幸せな気持ちになる。もっと見たいと思う。
彼女の一挙一動に心が動かせられる。彼女が満天の星空のように輝いた笑顔を見せるたびに心が跳ねる。
ああ、こんな気持ちになったのは初めてだ。
こう言う気持ち世間ではなんて言うのかな。
憧れ? 違う。恋? それでは少し安っぽい。
・・・・ああ、分かった。これは愛と言うんだ。
ただ彼女と一緒にいたい。彼女と共に笑っていたい。
僕のそんな願望とは無関係に別れの時期は迫っていた。