「はっ!」
僕は目を覚ます。
場所は・・ロッカーの中だ。足下にはバケツがあり、右隣には数本のほうき。教室によくあるT字型のほうきだ。
数瞬の間、理解が出来なかった僕だったが徐々に思い出してくる。
たしか・・そうだ。かくれんぼをしていたらそのまま寝てしまった。学校全体をかくれんぼの舞台にして友人達数人とかくれんぼをしていたのだ。
僕は灯台もと暗しとか言いながら自分のクラスの掃除用具入れに隠れたのだ。
すると、外から聞こえてくる吹奏楽の演奏と野球部の金属バットがボールに当たる音、昨日の夜更かしによる寝不足。それらが合わさって眠気を誘ってきたので少し眠気を飛ばすつもりで目を閉じた。そうしたらぐっすりと眠ってしまったわけだ。
寝る前の記憶を取り戻した僕はロッカーから出る。
吹奏楽の音や部活動をしているあの騒がしい感じが無かったのでなんとなく分かっていたが空は完全に暗くなっていた。
真っ暗な空には霧吹きで白い絵の具を飛ばしたような星空が広がっていた。
時刻を見ると午前2時。ぎょっとするが、僕の親は極度の放任主義なので連絡も特に必要ないと思い出す。
しかし、真夜中の学校と言うのもなかなか乙なもので星と満月が発する淡い光が差し込む教室は綺麗だった。
なかなか出来ない体験だと思った僕は教室を出て校内を回る。男子トイレや女子トイレの中は暗さに慣れてきた自分の目でも把握することはできず、不気味で真っ暗だった。
この学校は基本的に鍵なんて掛けていないのでいろんな教室に入れた。職員室、校長室、放送室など普段あまり入る機会のない場所をいろいろ巡る。
ふと、美術室の前を通りかかったとき、声が聞こえた。
「・・ですか・・・・ほど・・すね」
こんな時間に生徒が残っているとも思えない。先生か警備員か? と思ってこっそり中をのぞき見るとそこには女子生徒がいた。だが制服がうちのものではない。うちの学校は男女ともにブレザーだ。だが彼女が着ているのは黒いセーラー服。
彼女は美術室にある彫刻に向かって話しかけて笑っている。
・・幽霊だ。間違いない。幽霊だ。
初めて幽霊をみた興奮で体が少し動き、扉にぶつける。
ガタンッ。
「だれ?」
「・・・・」
声を押し殺して息を止める。バレないようにと願いを込めながら身を隠す。
「隠れてないで出ておいでよ。そこに居るんでしょう?」
もはや相手は居ると確信しているらしい。だがそれでも出る訳にはいかない。何をされるか分かったもんじゃないから。
「そのまま隠れているなら呪うよ」
「っ!!」
呪われてはたまったもんじゃないと思った僕はゆっくりと警戒しながら半身で姿を見せる。
僕の姿を見た彼女は優しい目をしながら微笑んで口を開いた。
「こんばんは」
「こ、こんばんは・・?」
「君はどうしてこんな時間にいるのかな?」
「か、かくれんぼしてたら・・寝過ごした」
僕がそう言うと彼女は口元を抑えながら椅子の上でうずくまる。体は小刻みに震えていて「ふふふふふ」という笑い声が漏れていた。
「君・・おもしろいね・・」
今のどこに面白いと感じる要素があったのか分からなかったが彼女の醸し出す雰囲気が柔らかく、暖かいものであるのを感じた。敵意や害意は特に感じられなかった。そのせいかどうかは分からないが僕の緊張感や警戒心も少しずつ薄れていく。
「あの・・聞きたいことがあるんですが・・」
「なに? なんでも答えるよ」
「なに、してたんですか?」
「彫刻に話しかけてたの。暇だから」
「その彫刻話すんですか・・!?」
「いや、話さないよ。私が一方的に話しかけてただけだよ」
「じゃ、じゃあ、あなたは・・幽霊ですか・・・・?」
「うん。そうだね。私は幽霊だよ」
「・・じゃあ、俺は霊感があるってことか・・・・」
「・・・・ぷふっ。あははははは! 普通そこに考えつく? 普通は恐いとか逃げたいとかじゃないの?」
彼女は必死に笑いをこらえながら言葉を紡ぐ。体をぷるぷると震わせながら。
「いや、なんとなくあなたは恐いと感じません」
「ほお~? もしかしたらこわ~い怨霊かもしれないのに?」
「え! そうなんですか?」
「ふふっ。違うよ~。私はただの地縛霊だよ」
「地縛霊ってことはここから動けないんですか?」
「うん、そうだね。正確にはこの学校から、だね。・・う~ん」
彼女はそう言って少し考え込むように手を顎に当てて前屈みになる。まるでオーギュスト・ロダンが作った「考える人」と同じように。
数分の静寂のあと、彼女はぱっと顔を上げてにこりと優しく笑う。
「君、私の話し相手になってよ」
そう言う彼女は教室に差し込む月光と相まってとても幻想的で美しく、そして儚かった。
僕は目を覚ます。
場所は・・ロッカーの中だ。足下にはバケツがあり、右隣には数本のほうき。教室によくあるT字型のほうきだ。
数瞬の間、理解が出来なかった僕だったが徐々に思い出してくる。
たしか・・そうだ。かくれんぼをしていたらそのまま寝てしまった。学校全体をかくれんぼの舞台にして友人達数人とかくれんぼをしていたのだ。
僕は灯台もと暗しとか言いながら自分のクラスの掃除用具入れに隠れたのだ。
すると、外から聞こえてくる吹奏楽の演奏と野球部の金属バットがボールに当たる音、昨日の夜更かしによる寝不足。それらが合わさって眠気を誘ってきたので少し眠気を飛ばすつもりで目を閉じた。そうしたらぐっすりと眠ってしまったわけだ。
寝る前の記憶を取り戻した僕はロッカーから出る。
吹奏楽の音や部活動をしているあの騒がしい感じが無かったのでなんとなく分かっていたが空は完全に暗くなっていた。
真っ暗な空には霧吹きで白い絵の具を飛ばしたような星空が広がっていた。
時刻を見ると午前2時。ぎょっとするが、僕の親は極度の放任主義なので連絡も特に必要ないと思い出す。
しかし、真夜中の学校と言うのもなかなか乙なもので星と満月が発する淡い光が差し込む教室は綺麗だった。
なかなか出来ない体験だと思った僕は教室を出て校内を回る。男子トイレや女子トイレの中は暗さに慣れてきた自分の目でも把握することはできず、不気味で真っ暗だった。
この学校は基本的に鍵なんて掛けていないのでいろんな教室に入れた。職員室、校長室、放送室など普段あまり入る機会のない場所をいろいろ巡る。
ふと、美術室の前を通りかかったとき、声が聞こえた。
「・・ですか・・・・ほど・・すね」
こんな時間に生徒が残っているとも思えない。先生か警備員か? と思ってこっそり中をのぞき見るとそこには女子生徒がいた。だが制服がうちのものではない。うちの学校は男女ともにブレザーだ。だが彼女が着ているのは黒いセーラー服。
彼女は美術室にある彫刻に向かって話しかけて笑っている。
・・幽霊だ。間違いない。幽霊だ。
初めて幽霊をみた興奮で体が少し動き、扉にぶつける。
ガタンッ。
「だれ?」
「・・・・」
声を押し殺して息を止める。バレないようにと願いを込めながら身を隠す。
「隠れてないで出ておいでよ。そこに居るんでしょう?」
もはや相手は居ると確信しているらしい。だがそれでも出る訳にはいかない。何をされるか分かったもんじゃないから。
「そのまま隠れているなら呪うよ」
「っ!!」
呪われてはたまったもんじゃないと思った僕はゆっくりと警戒しながら半身で姿を見せる。
僕の姿を見た彼女は優しい目をしながら微笑んで口を開いた。
「こんばんは」
「こ、こんばんは・・?」
「君はどうしてこんな時間にいるのかな?」
「か、かくれんぼしてたら・・寝過ごした」
僕がそう言うと彼女は口元を抑えながら椅子の上でうずくまる。体は小刻みに震えていて「ふふふふふ」という笑い声が漏れていた。
「君・・おもしろいね・・」
今のどこに面白いと感じる要素があったのか分からなかったが彼女の醸し出す雰囲気が柔らかく、暖かいものであるのを感じた。敵意や害意は特に感じられなかった。そのせいかどうかは分からないが僕の緊張感や警戒心も少しずつ薄れていく。
「あの・・聞きたいことがあるんですが・・」
「なに? なんでも答えるよ」
「なに、してたんですか?」
「彫刻に話しかけてたの。暇だから」
「その彫刻話すんですか・・!?」
「いや、話さないよ。私が一方的に話しかけてただけだよ」
「じゃ、じゃあ、あなたは・・幽霊ですか・・・・?」
「うん。そうだね。私は幽霊だよ」
「・・じゃあ、俺は霊感があるってことか・・・・」
「・・・・ぷふっ。あははははは! 普通そこに考えつく? 普通は恐いとか逃げたいとかじゃないの?」
彼女は必死に笑いをこらえながら言葉を紡ぐ。体をぷるぷると震わせながら。
「いや、なんとなくあなたは恐いと感じません」
「ほお~? もしかしたらこわ~い怨霊かもしれないのに?」
「え! そうなんですか?」
「ふふっ。違うよ~。私はただの地縛霊だよ」
「地縛霊ってことはここから動けないんですか?」
「うん、そうだね。正確にはこの学校から、だね。・・う~ん」
彼女はそう言って少し考え込むように手を顎に当てて前屈みになる。まるでオーギュスト・ロダンが作った「考える人」と同じように。
数分の静寂のあと、彼女はぱっと顔を上げてにこりと優しく笑う。
「君、私の話し相手になってよ」
そう言う彼女は教室に差し込む月光と相まってとても幻想的で美しく、そして儚かった。