「あっ、私中本杏って言います」
「杏?いい名前だね」
「あ、ありがとう!」

嬉しくて少し照れてしまった。 

「俺、青木太陽。よろしく」

あんまり笑わない太陽君が笑った。私は嬉しくて仕方がなかった。次の話題は何にしようかと考える。早く話題を作らないと気まずくなるような気がしていた。

「俺数学の宿題してなくてさ、見せてほしいんだけど」
「もちろん!はい、どーぞ」

太陽君は「ありがとう」と言って私のノートをペラペラめくり始めた。

「杏、字綺麗だね」
「えっ、そんなことないと思うけどなぁ」

太陽君は自分のノートを開いて私に見せてきた。確かに男の子らしい乱暴な字をしていた。そんなことよりも私はもっと重大なことに気づいてしまった。太陽君は授業の内容をほとんど書いていなかったのだ。

「太陽君てさ、ちゃんと授業受けてる?」
「大体寝てるよー」
「だ、だよね」

本当は毎時間ノートを貸してあげたいくらいだけど。やっぱり「いらない」って言われるのが怖くて言えなかった。時計を見てみる。すると画面には<毎時間貸してなんて言えない>と書かれていた。これはチャンスだ。