可愛いな。
 率直にそう思った。

「あのさ、覚えてない?私のこと」
「えっ、えっ、も、もしかしてどこかで会ったことあるっけ」

 不意を突かれて、変な汗が出た。
 彼女がまとっている黄色のワンピースはどう見ても制服ではないから、同じ高校かどうかも分からない。確かめようがない。
 まあ、同じだったとしても、全員の顔と名前が一致するわけではないけど。

「森宮中学校で一緒だった、安西菫です!」

 アンザイスミレ。
 その名前には、かすかに聞き覚えがあった。

「君は、藤田涼介くんだよね」

 彼女は自信たっぷり、得意げな表情を浮かべている。
 それに比べて俺は、脳みそをフル回転させ、必死に中学時代を思い出そうとしていた。
 アンザイスミレ…アンザイスミレ…

「覚えてなくても無理ないよ。私、ほとんど学校行ってないからさ、ここの病院に入院してて」

 入院。
 そのワードで思い出した。
 中学3年間、名簿上では同じクラスだったけど、ほぼ言葉を交わしたことのないクラスメイト。
 卒業アルバムにも、個人写真を載せず、団体写真には映っていないクラスメイト。
 それが、安西菫だ。