「ちょーっと待って!」

 フェンスの下を覗き込んでいたら、後ろから声がした。
 振り向くと、ショートヘアの女の子。
 走って上がってきたのか、肩で息をしている。

「だめだって!病院で飛び降りなんて! いや、病院じゃなくてもダメだけどさ!」

 そう、ここは近所にある総合病院の屋上。
 どこかが悪いわけではなく、親がこの病院で働いているからか、なんとなく昔からよく来る場所。

「考え直して!飛び降りてもいいことないよ!」

  彼女は騒ぎながら、やたら制服のシャツを引っ張ってくる。
 どうやら、俺が投身自殺を図ろうとしていると思い込んでいるらしい。

「いや、しないよ、しないってば。」

 彼女がすごい力で掴むから、シャツの裾が破れそう。
 慌てて弁解した。

「誤解だよ、普通に街を見てただけだから…」
「え、そうなの?」
「うん」

 全く飛び降りる気なんて無いのに、女の子が真剣なのがどこか可笑しい。
 つい口元が緩んだ。

「いま笑ったね!わたし、本気で心配したんですけど」

 拗ねたように口を尖らす。
 いたずらっぽい大きな瞳が、夏の太陽にきらりと光った。