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「……それで先輩とは話してみたくて、それで、展覧会の記念撮影の画像が高校のホームページに上がってたので顔も知って……水族館で見かけたんですよ。制服は同じ高校だし、間違いなく先輩だなってなりました」
「なるほど。だから隣に座ってくれたんだね」
「はい。変な行動ですよね。ほんと勝手になんかごめんなさい」
「いや……なんか嬉しいというか、よかったなあ、ほんと」
「よかったのですか?」
「うん」
なぜなら、僕の絵によってなにか感じて、そして行動を変えた人がいるからだ。
隣に。
そして、僕に話しかけてくれたのが、とても……素敵だと思うし、この女の子は、何にも下手じゃない。
少なくとも僕は、この女の子の強い想いに、魅せられているはずで。
だからこそ……。
「その記事、公開しようよ」
僕は言った。
「え、バレていた……んですね」
美堀さんは驚いて、でも驚きながら嬉しそうに少し笑った。
そして水面のイワシ、底の方のウツボを順に見て、そして他のいろんな魚を見て、それから口を開いた。
「私、自信がないというか、なんか怖い気持ちがあるじゃないですか。なんか馬鹿にされたり変なコメントが来たらやだなとか」
「うん」
わかる。
「だから、ずっとサイト非公開のままで、記事を書いていたんです。誰にも見てもらえないとわかったまま。いつかは公開しようと思いつつ、気がつけば記事は結構書いたけど、まだ公開する気分じゃありませんでした。だから記事を読んだのは、ウェブアドレスを教えた先輩が、初めてです」
「そうか」
「……はい。ぼっちは、落ち着くところもあるのです。記事に関しても、独りでいた方が、落ち着くところもあるのです。私がただ一人で記事を書いてるのが、なんか意味を持つ可能性があるままで、否定されることはないので」
「うんうん」
「先輩は……どうしてあんなにたくさんの絵を発表できたのですか?」
美堀さんはそう僕に訊いた。
「それは……発表するためではなくて、評価されるためにコンテストとか展覧会に出してたからかな」
「賞が欲しかったってことですか?」
「そうだね」
「なるほど……」
「結局、まぁそういう賞とかなんか嫌になって、そもそも絵も嫌になって、そして絵の題材も見るのが嫌になってきた……って頃に、美堀さんと会えたんだよ。だからよかったのかも。結果的に展覧会に出して」
「……私も、そういうふうなことがあるなら……公開してみるのもいいかもしれません。昔のやる気のあった先輩たちの努力もまた再注目を浴びるかもしれないですし」
「ちなみに僕は……すごく……」
「また絵、描きたくなって、くれた……」
「そういうことだね」
ただ元に戻っただけ、じゃないんだよ。
動いて戻ってきたってことは、僕が何かをし、美堀さんが何かをしたってことだ。
そんなことがわかっただけで、また絵を描きたくなるし、美堀さんは自分の活動を、自信なさげに扱うことはなくなるだろう。
だから美堀さんと僕は、また今日もこれから、水族館をじっくり見て回るのだ。
そうすると気づく。描きたい、伝えたいことが、まだたくさん見つけられることに。
それからも僕は美堀さんと、毎日のように水族館に行った。
そして何度見ても、あ、明日はここ見てみよう、となり、結局一ヶ月くらい、水族館デートのようなものに毎日行っていたのだ。
そんな日々が過ぎ、そして今度は記事を書く時間がやってきた。
部室で二人で作業。
僕は記事も書くし、イラストや絵も描いた。
写真ももちろん悩みながらいいのを選んで採用した。
そんなふうにしてどんどんと出来上がる何個もの記事は、完成次第、公開状態で投稿していった。
しばらく止まっていたサイトでもあるので、あまりたくさん見てもらえる状況ではなくて、だけど好意的なコメントとかもついているし、アクセス数も増える傾向だった。
取材して記事を書いて、そして見てもらって……をたくさんやって。
そんな日々が過ぎていった高校生活だった。
「……それで先輩とは話してみたくて、それで、展覧会の記念撮影の画像が高校のホームページに上がってたので顔も知って……水族館で見かけたんですよ。制服は同じ高校だし、間違いなく先輩だなってなりました」
「なるほど。だから隣に座ってくれたんだね」
「はい。変な行動ですよね。ほんと勝手になんかごめんなさい」
「いや……なんか嬉しいというか、よかったなあ、ほんと」
「よかったのですか?」
「うん」
なぜなら、僕の絵によってなにか感じて、そして行動を変えた人がいるからだ。
隣に。
そして、僕に話しかけてくれたのが、とても……素敵だと思うし、この女の子は、何にも下手じゃない。
少なくとも僕は、この女の子の強い想いに、魅せられているはずで。
だからこそ……。
「その記事、公開しようよ」
僕は言った。
「え、バレていた……んですね」
美堀さんは驚いて、でも驚きながら嬉しそうに少し笑った。
そして水面のイワシ、底の方のウツボを順に見て、そして他のいろんな魚を見て、それから口を開いた。
「私、自信がないというか、なんか怖い気持ちがあるじゃないですか。なんか馬鹿にされたり変なコメントが来たらやだなとか」
「うん」
わかる。
「だから、ずっとサイト非公開のままで、記事を書いていたんです。誰にも見てもらえないとわかったまま。いつかは公開しようと思いつつ、気がつけば記事は結構書いたけど、まだ公開する気分じゃありませんでした。だから記事を読んだのは、ウェブアドレスを教えた先輩が、初めてです」
「そうか」
「……はい。ぼっちは、落ち着くところもあるのです。記事に関しても、独りでいた方が、落ち着くところもあるのです。私がただ一人で記事を書いてるのが、なんか意味を持つ可能性があるままで、否定されることはないので」
「うんうん」
「先輩は……どうしてあんなにたくさんの絵を発表できたのですか?」
美堀さんはそう僕に訊いた。
「それは……発表するためではなくて、評価されるためにコンテストとか展覧会に出してたからかな」
「賞が欲しかったってことですか?」
「そうだね」
「なるほど……」
「結局、まぁそういう賞とかなんか嫌になって、そもそも絵も嫌になって、そして絵の題材も見るのが嫌になってきた……って頃に、美堀さんと会えたんだよ。だからよかったのかも。結果的に展覧会に出して」
「……私も、そういうふうなことがあるなら……公開してみるのもいいかもしれません。昔のやる気のあった先輩たちの努力もまた再注目を浴びるかもしれないですし」
「ちなみに僕は……すごく……」
「また絵、描きたくなって、くれた……」
「そういうことだね」
ただ元に戻っただけ、じゃないんだよ。
動いて戻ってきたってことは、僕が何かをし、美堀さんが何かをしたってことだ。
そんなことがわかっただけで、また絵を描きたくなるし、美堀さんは自分の活動を、自信なさげに扱うことはなくなるだろう。
だから美堀さんと僕は、また今日もこれから、水族館をじっくり見て回るのだ。
そうすると気づく。描きたい、伝えたいことが、まだたくさん見つけられることに。
それからも僕は美堀さんと、毎日のように水族館に行った。
そして何度見ても、あ、明日はここ見てみよう、となり、結局一ヶ月くらい、水族館デートのようなものに毎日行っていたのだ。
そんな日々が過ぎ、そして今度は記事を書く時間がやってきた。
部室で二人で作業。
僕は記事も書くし、イラストや絵も描いた。
写真ももちろん悩みながらいいのを選んで採用した。
そんなふうにしてどんどんと出来上がる何個もの記事は、完成次第、公開状態で投稿していった。
しばらく止まっていたサイトでもあるので、あまりたくさん見てもらえる状況ではなくて、だけど好意的なコメントとかもついているし、アクセス数も増える傾向だった。
取材して記事を書いて、そして見てもらって……をたくさんやって。
そんな日々が過ぎていった高校生活だった。