初めて会った日から約一週間。高峰先輩の成長速度は目覚ましい。問題点は殆どが改善され、応用技も短時間でポンポンと自分のものにしてしまう。
 なんとなくだが、ここまでの才能が今までどうして埋もれたままだったのか、わかった。恐らくだが、先輩と部活の練習スタイルがあってなかったのだ。
 神原先生も流石に、一人の部員の為に練習を変える訳にはいかないし、高峰先輩自身も気付いていなかったのだろう。


 けど、遅くない。今からだ。
 先輩のレギュラー入りは遠くない。
 懸念事項があるとすれば、最近、先輩の体に切り傷や擦り傷が目立つようになったことだ。無論、私は怪我を伴うような練習はやらせてないし、部活の中でも危険な練習はない。
 なら、何故先輩はそんな傷跡が出来るのか?
 今後に響くと思った私は、心当たりはないか聞いた。


「怪我、目立ちますよ? なにしたんですか?」

「あ~、この怪我のこと? それが、自分でも分かんなくてさ。なんだろうね、寝てる間に引っ掻いちゃったのかな?」


 苦笑いしながら言う先輩の言葉が嘘だと見抜くのは、そう難しくない。
 一人で掃除してた時といい、今ある切り傷や擦り傷といい、先輩はなにか大事なことを黙っている。私も人のことは言えないが、先輩のは一歩間違えば選手生命を絶たれるかもしれない。可能性が一番あるのはイジメだが、本人が否定しているから、証拠がなければ、顧問である神原先生に訴えることもできない。


 どうすればいい?
 なにをすればいい?
 悩んでいる内に時間だけが過ぎていく。
 そこでふと気づいた。「なんで、私は先輩の為に必死になって考えてるんだろう」と。
 正直な所、先輩がどうなろうが、私に影響はない。寧ろ、日が経つにつれ距離感を詰めてきて、ウザさが強まりつつある。けど、あの煩さに慣れてしまったから、隣に先輩が居ないのは少しだけ寂しい。