「かんぱーい!」

 一人元気よくグラスを掲げた田中さんは、よってもないのにすごいハイテンションになっていた。

 「いっちーと飲むの久しぶりでなんだかうれしくなっちゃうなあ。」
 「何か月ぶりなんでしょうかね。この三人で飲むと、あの時の仕事を思い出します。」
 「なかなかハードだったけど楽しかった!ともはしっかりしてるし、いっちーはよく気が利くし、俺が自由にやってても何も言わないの二人だけだよ!」
 「何も言わないのは、言ってもどうにもならないからだよ。」
 「そんなこと言わないで!悲しむよ!」
 「悲しみなさい、存分に。」

 三人で飲むときは、だいたいこの二人でじゃれている。

 「ところでいっちー。大神さんは最近元気かい?」
 「元気ですよ。最近楽しそうですし。」
 「へえ、なんかいいことあったんだね。ちなみに彼氏できたとかじゃないよね⁉」
 「さあ、留美はそういうところあんまり言わないのでわからないです。」
 「あ、そうなの?意外と秘密主義者?にしてもいっちーには何でも言ってそうなくらい仲良しに見えるけどね。」
 「仲が良くても話すことと話さないことがあるだろ。」
 「え、うそ。俺全部ともに話してるよ!」

 確かに、仲が良くても話さないことはある。
 私は田中さんタイプですべて話してしまうから、留美にも話してほしくなるのかもしれない。
 なんだか、新しい発見ができてうれしくなった。

 「田中は、すべてをさらけ出しすぎなんだよ。」
 「いーや。俺だって秘密はあるもんね!」
 「それももうばれてるじゃん。」
 「あれどこから漏れたんだろうな。俺ともにしか言ってないし、ともはそんなこと言う人じゃないし。」
 「あー、御曹司がなんたらっていうのほんとだったんですね。」
 「あれ、いっちーも知ってるじゃん。」
 「やっぱ隠したいことなんですか?」
 「うーん。御曹司ってだけで言い寄ってくる人もいるからね。あんまり言いたくないよね。」

 田中さんは普段おちゃらけている人だから、あんまり深刻な悩みとかなさそうだと思っていた。人は見かけによらず、いろいろかかえているものがあるのかもしれない。
 田中さんが沈むと空気も沈むので、元気が出るかはわからないが、留美の話題を振ってみることにした。

 「さっき留美に彼氏ができたかできてないかって話ししましたけど」
 「あ、大神さん!」

 さすが食いつきがいい。

 「彼氏はできてないと思いますけど、あれは好きな人、できましたね。」
 「え!うそ!俺出遅れたじゃん!」
 「毎日顔赤くしてにこにこしてますよ。田中さん、ドンマイです。」
 「まってまって、勝手に失恋記念日にしないで。ってねえ、とももなんか言ってよ!」
 「なんで俺がお前に何か言わなきゃなんないんだ。」
 「…なんか、テンション低くなってない?」

 確かになんだか目が座っているようないないような。

 「そんなことはない。俺いつもこんな感じ。」
 「それもそうか!よし、飲むぞ!ぐびぐび行くぞ!」
 「明日も会社ですけど大丈夫ですか?」

 結局田中さんは酔いつぶれた。
 田中さん、あなたいないと私しんどいんですけど。
 酔わせる原因を作った私が言うことじゃないけど。
 中木さんと二人で田中さんをタクシーに乗せて、二人で駅まで歩いた。