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 その日、フィアナとシャウアと別れたユウリは、学校を後にした。木々に囲まれた石畳の道を一人、歩いていく。
 衛星太陽もだいぶ沈んだ夕暮れ時だった。しばらく歩き、ユウリは赤レンガの住宅へとたどり着いた。
 ユウリの自宅だった。三角の屋根は灰色で、家は小振りながらも堅実な様である。
 周囲には土の地面が広がっており、胸ほどの高さの石壁に囲まれていた。
(父さんはまだ仕事で、母さんは……今の時間だと買い物かな)
 予想を付けたユウリは、玄関のドアを開いた。
 目の前にルカがいた。悪竜(ヴァルゴン)に襲われた時と同じ祭服姿だった。
「ただいま、ルカ。着替えもせずにどうしたんだよ。まあ似合ってて可愛いし、俺としては全然良いんだけどな」
 穏やかに微笑みかけつつ、ユウリは冗談っぽく尋ねた。
 しかしルカからの反応はなく、身体はわずかすら動かない。ユウリを見つめる瞳にも、どこか現実離れしたものを感じた。
(この雰囲気は。まさか、神託? ここ数か月で、現法皇の倍は起きてるだろ……。代替わりが近い、のか?)
 ユウリが動揺していると、ルカは小さな唇をおもむろに開いた。
「我は摂理(ルミラル)時間(とき)の始まりよりなお古い、何者よりも()りて在る者。我が被造物たるユウリ・ヴェルメーレンに言の葉を授く」
 声こそルカのものだが、声音は穏やかながらも威厳に満ちていた。
 ユウリはごくりと唾を飲み込み、厳粛な態度で耳を傾け続ける。
「先の悪竜(ヴァルゴン)の強襲は、偶然の事象に非ず。悪しき者は既に内に入りており、打ち遣れば災厄を齎すは必然なり」
 発語が途切れた。するとルカは、糸の切れた操り人形のようにくたりと倒れ込んだ。苦しげな様子で、浅い息を繰り返している。
(くそっ! だから神託は嫌いなんだ! どういう理屈でこんなにもルカの身体に負担が掛かるんだよ!)
 ユウリは激しく苛立ちつつも、姿勢を低くしルカに身体を寄せた。
「ルカ! お願いだ! 返事をしてくれ!」
 蒼白なルカの頬に、ユウリはそっと手を当てた。
 するとルカは、うっすらと目を開けた。「お兄ちゃん? もしかしてわたし、またルミラル様に……」ルカは消え入りそうな声で呟いた。
「ああ、そうだ。でももう心配いらないぞ。俺はここにいる。ずうっとルカのそばにいるから」
 めいっぱいの愛情を込めて、ユウリはルカに笑いかけた。
 ルカも微笑を返してきて、ユウリは胸に暖かいものが広がるのを感じた。