チャキタイムのお約束は、二千円で、持ち時間かっちり一分。一万円払えば、五分だが、もう一度、最後尾に並ばなくてはいけない。でないと、金持ちが十二万円払って一時間独占するなんてことになってしまうからだ。
　そんなやつはざらにいる。大金持ちなんて二十四時間どころか、何千万でも何億円でも出すという輩もいる。まるで芸者の「水あげ」だ。そんなことが出来ないように、お金持ちも貧乏人も、ちゃんと並ばなくてはいけない健全なシステムなのだ。
「貧乏学生は社会人に比べて不利だ」という声が上がった時には、「ピンチケ」と呼ばれる、半額になるピンク色のチケット、学割チケットが販売された。
　銀座やキャバクラに高級車で乗り付け、札ビラ切ってブイブイいわせる昔のルールがここでは全く通用しない。
　澄み切ったミネラルウォーターのように綺麗な水商売の世界。

　その後、毎週末の土日や祝日は、びっしりと公演が組まれ、神田橋大明神池ホールでの公演も満席にした。ここは神社が経営するコンサートホールだが、クラシックなど、あまり人気のないイベントでは集客できず、苦し紛れに地下アイドルのライブに貸し出すようになってブレイクした。ＡＫＮＢＥ４８のお膝元、秋葉原のすぐそばという地の利もあって、ＡＫＮＢＥもどきや、それを目標とするアイドルたちのメッカになりつつある。
　なにしろ神社なので、縁起がいいと噂された。
　スタンディングで、約七百名収容できるところ、詰め込んで、八百名入れた。
　ピーチバレーズの歌や踊りが下手でも、芝居が学芸会のようでも、観客はさほど気にはしていなかった。公演後の接触イベント、チャキタイムがお目当てなのだ。
　五人のメンバーにそれぞれ、百五十人のお客が列をなすが、メンバーはあの顔識別アプリを使って、ヲタ全員の名前とインフォメーションを、会話の中に盛り込む。
　百五十人のお客をさばくのに、二時間半強かかり、売上は、三十万ずつ、五人分。百五十万円。それを一日、数回行う。地方公演も行われ、運営側は、ぼろ儲けだった。
　しかし、それが限界でもあった。
　料金は、他のアイドルグループたちも横並び、二千円というのが、自然に決まった適正価格。それを値上げすると、さすがにお客は離れるだろう。時間的にも、女の子たちの体力的にも、百五十人弱、二時間程度が限界なのだった。