ドロクイコンテストや、ドロボイコンテストと呼ばれる、美男美女を選ぶ大会が事前に行われ、上位入賞者だけが、このレースの花となれる狭き門。
 そんな選ばれたドロクイ、ドロボイ入賞者が憧れるのが、ドローンレーサー。
 ドローンレーサーは世界一の人気職業なのだ。
 十八万人の視線が俺に注がれている。トラックの荷台に、ドローンと一緒に乗った俺のボルテージは最高潮に達し、反射的に立ち上がって右手を高くあげ、スタンドの方に向けて手を振ると、もう一度、さらに大きく十八万人の大歓声が鳴り響いた。
 臨時雇いの農家のおっさんが運転するトラックの運転席から、大音量にしたラジオの実況中継が聞こえてくる。
 古舘(ふるたち)三郎というアナウンサーがしゃべりまくっている。
「さあーて、この星野スバルという十代の若者! まだあどけない、この少年とも言える、若者。星野スバルは、つい先日、彗星の如く現れて、あっさり日本レコードを更新しましたっ! おーっとぅ! その星野スバルが手を振っていますっ! 高らかに揚げた手は、早くも勝利の宣言でしょうかっ! 経歴も過去も、何もわからないこの少年! この少年こそ、今回のドローンダービー、優勝候補のオオアナウマですうっぅぅぅぅぅ!」
 わずか二ヶ月前は、自殺の場所を探して樹海を彷徨っていたというのに……
 俺は、全身に鳥肌がたった。
 入場パレードを終えると、トレーラーはそれぞれのパドックでレーシングドローンを降ろす。最終の機体検査が終わったドローンからスタートグリッドへと台車で運ばれてゆく。
 スターティングポジションは、カーレースとは違い、あらかじめ決められてはいない。
 地上ではなく、空中からのホバリングスタートだ。
 会場全体にファンファーレが鳴り響く。
 スターティングカーテンと呼ばれるレーザースクリーンが、地上にひかれたスタートラインから垂直に照射され、光の幕を作る。スターティングポジションは、その内側ならどこでもいいのだ。当然、上空の方が有利になる。ドローンが発生する吹き下ろしの風を受けないからだ。
 しかし、あんまり上の方だとスタートライン前方二キロ先に設けられた、第一ループからの距離が遠くなる。ベストポジションは地上から約、三十メートルといったところだろう。そこを巡って熾烈なポジション争いが始まった。