曽祖母は、「少女カラ時代」という韓流アイドルユニットのメンバーのひとりだったらしいが、例によって小さい頃、児童養護施設の前に置き去りにされた。
 韓が相手をしているアラブ人客は、日本の着物は着ておらず、アラブ独特のディスターシャという白装束を着て髭をたくわえている。上品そうに、にっこりと微笑みながら差し出す手には、宝石が埋め込まれた金の指輪をはめ、もう片方の手で髭を撫でている。
 王侯貴族なのか、五人もお付きの者を従えていた。お付きの者も全員ディスターシャ。
 そのアラブ人男は、口を開けないので、韓は、たこ焼きを爪楊枝に刺し、にっこり笑って差し出した。男は人差し指を立て、何度か横に振る。
 次に、三人娘を順番に指差し終わると、今度は屋台全部を指でまあるく囲み、自分の胸をトントンと二、三度叩き、再び、にっこり微笑んだ。
「アホたん!」
『TAKOBALL』と描かれた赤ちょうちんの下に置かれたビール箱に座っていた、ジャージ姿のグラマーな女性が、人差し指を立て、横に振りながら近づいてきた。
「この娘たちは売りものじゃないのっ! 帰って! 女が欲しけりゃあっちへ行ってっ!」
 と、屋形船が停泊している海の方向を指差す。
 彼女のあまりの剣幕に、お付きのボディガードが取り囲む。
「この娘たちは、部活のお金を稼いでんのよっ! あたしはこう見えて学校の先生なんだからねっ!」
 LGBTや、性差別の撤廃が究極に進んだその頃、世界中で、男女平等な社会が実現しつつあり、男は、どんどん女らしくなり、女は男らしくなっていた。
 そうなってくると、元々人気だったサッカーやプロ野球には女性が殺到し、甲子園球児たちも、今では女子高生が半数以上。ジャムアンコの四番バッターも、大リーグから来たブロンド娘。長い金髪をキャップの後ろからポニーテールで出し、バットをブンブン振り回す。ホームラン王にもなりかけたことがある。
 盗塁専門の黒人女性選手や、サブマリン投法の女性ストッパーもいる。
 スタンドでは、ミニスカートのチアガールと一緒に、ブーメランパンツに、ヘソ出しタンクトップのチア男が応援する状況になっていた。
 たこ焼き屋の女将、ポーラは児童養護施設の職員で、フリーの部活指導員でもある。
 彼女自身、その児童養護施設出身であった。スポーツ万能で気が強い。