パイロットが乗り込むドアは、前方に跳ね上がる一ヒンジのガルウィングドア。
　コックピットのバケットシートは、軽量化のため、ショックスプリングや、クッションまで抜いてあり、パイロットからは、「痔になる」と悪評だった。
　その隣のパドックはスグセデス・ベンツウ。別名シルバーアローと呼ばれる優勝の大本命。売りはアクティブ・エアブレーキ。
　これは飛行中のドローンから、突然エリマキトカゲのようなフラップが持ち上がり、一瞬でホバリングの姿勢になる、珍しい新型ブレーキだった。
　プロペラの回転数を落とさなくても、それを使えば減速出来る優れもの。
　欠点は、ブレーキング時のＧが強すぎて、パイロットが失神してしまう可能性があったから、レーサーは、宇宙飛行士のような厳しいトレーニングを必要とした。
　徹底的に鍛え上げられた二人のパイロットは、なんとドイツ人の美人女性だった。
　二人とも筋肉質だが、グラマラスな体とブロンドヘア。
　シルバーボディの機体前方真ん中に、スリースターズ＆ストライプスが煌めく。
　八発の典型的なオクトコプターだが、プロペラガードはボディと一体型で、美しく流れるような流線型をしている。老人のファンが多い。
　日本グランプリで二位、三位だったポルテ・コレラも参加権を得ていた。
　あの双子の美人姉妹だ。前回の雪辱を期しているのか、目がつり上がっている。
機体は前回と基本的には同じようだが、各部をそうとうブラッシュアップしているだろう。
　ボディの前方左右に、カエルの目のようなLEDライトの出っ張りがあるのもそのままなので、中国人からは、「空飛ぶカエル」とか「空飛ぶ出目金」と呼ばれていた。
　あの双子がぴったり息を合わせたブロッキングテクニックは、ここ市街地レースでは、飛行経路が狭いので、一旦前に出られると、なかなか抜けない。
　要注意なのは間違いない。
　高層ビルの隙間は、ビル風が吹くので、風を読むのが難しい。
　特に、スグセデスのアクティブエアブレーキの後方にでもつけたら大変だ。後ろを飛んでいるドローンは乱気流に巻き込まれ、バランスをとるだけでいっぱいいっぱいになる。
　気をつけなくてはいけない。スグセデス・ベンツウは頭痛のタネだ。