青山通りを「神宮球場冬花火大会」に向かう観衆は、唖然としてホバーバイクを見上げた。ほとんどの人が口をあけたまま。
　そのホバーバイクが通り過ぎた直後、最新型の超大型ドローンが飛んできた。
　青山通りを、渋谷方面から低空を飛んで来たので、夕日と重なり、シルエットだった。
　通り過ぎると、真下にいる観衆から、徐々に大歓声が上がる。
　ピーチバレーズのメンバー五人を乗せたゴンドラをぶら下げているのだ。しかもそのゴンドラは透明アクリルで出来ているので、中が素通しで見える。
　ピチバレのメンバー五人全員、見せパンだが、ミニスカートでパンツが丸見えだった。
　この超大型ドローンは、春本がピーチバレーズを「ドローンに乗って未来の世界からやってきた」というキャッチフレーズで売り出すために、無理して海外から呼び寄せたものだった。
　青山通りいっぱいに広がる直径十メートルの巨大ドローン。ほぼ円形フレームだがよく見ると、十八角形、十八コアのプロペラを要す、「オクタデカゴンタイプ」だった。
　世界最大の積載容量を誇るドイツ製のプロトタイプ。それを春本が呼び寄せ、国土交通省や警察など、色々と根回しをして飛行許可を取ることに成功した。
　ウジフィルムがフィルムメーカーとして勢いがあった時代の残党が、チャキのヒットで息を吹き返した。そのおっさん連中が中心となってピチバレを推してくれたことがきっかけとなり、ピチバレのファン層は、若者だけでなくおっさんにも広がった。
　未来から持ってきた四つ折りタイプのスマホに興味を抱くうちに、ピチバレのサイトを覗き、ファンとなったスマホメーカーの技術者や、ＩＴやＡＩエンジニアも大勢いた。
　何より、時の総理大臣が「シュリンクしていく一方の日本を元気づける起爆剤となって欲しい！」と、表明して、関係省庁が忖度するようになり、イベント使用の飛行許可が降りたのだった。
　今やピチバレを日本中が応援している。
　オクタデカゴンドローンがゆっくりと青山通りを左折し、神宮外苑銀杏並木に入る。
　ゆっくりと通過するにつれ、並木道を歩く群衆の、大歓声のウェーブが沸き起こる。
　神宮球場では「冬の花火大会」の、特別イベントが始まる前。
　球場に集まっていた観衆は、メンバーが乗った透明ゴンドラが、神宮球場の照明をかすめると、大歓声をあげた。