「あー、フトシさん、こっちはヘドロさん推しの女限なんで、わりと楽っすぅ。でもぉ、女ヲタのナンパ狙いで、女装して紛れ込む厄介がいたけど、ピチバレには直接危害のリスクないんでぇ、ＮＣでスルーしちゃいましたぁ、オーバですぅ」
「あー、Ｃ氏Ｃ氏ぃ、ご苦労さまですぅ。女ヲタヲタＮＣスルーの件、ラジャですぅ。ぶじにハネたら、いつもの聖地でぇ、オフ会楽しみにすてますぅうオーバッ！」
　フトシも、その仲間たちも、興奮状態マックスハイテンションだった。
　八万人の熱狂的なファンで埋め尽くされた新国立競技場。オリンピックスタジアムが、民間に貸し出されるようになって、初めての公演。アリーナ席は全てスタンディング。
　場内に入りきれないヲタたちが、ピーチバレーズを一目でも見ようと、スタジアムの外までびっしりといる。
　昨年末からウジカラー、チャキのＣＭが流れ、ＣＭソング、「一分間のランデブー」が好評を博す。そして正月のスポットＣＭまで、ピチバレが起用された。
『お正月をチャキろ、ウジカラーでチャキろ！』
　というキャッチコピーは流行語となり、チャキの販促に役立った。
　ピーチバレーズは、とうとうメジャーデビュー出来たのだ。
　杉並サンプラザや武術館、たとえ幸楽園ドームを満杯に出来たとしても、それだけでは、まだ地下アイドルと呼ばれる。キューチューブで世界中、何億人にバズっても、「所詮、キューチューバーじゃん」と言って小馬鹿にされる。
　レコード会社からＣＤが発売され、ちょっとでもテレビに出て、初めてメジャーデビューなのだ。レコード屋が無くなった昨今、ＣＤがどこで買えるのかわからないし、ＣＤを買っても、それを聞くオーディオがない。ファンは、ＣＤを選抜選挙の投票権や、ピンチケと呼ばれる割引券や、接触イベントの参加チケット狙いで買い求め、聞かずに捨てる。
　ピーチバレーズは、レコード会社との契約が済み、新曲のＣＤが発売され、公演チケットもＣＤと抱き合わせで売られた。八万人以上が買ったことになる。
　青山通りを渋谷方面に夕日が沈み始める頃、その夕日の中から、ホバーバイクが現れた。
　ホバーバイクとは、四発のプロペラがオートバイの前後四隅に、下向きについたタイプのバイク型ドローンのことだ。
　ドバイでは、もう警察のパトロールバイクとして実用化されかけている。