トラウマは、簡単には消えていかないんだと知った。
高岡と別れ、吉瀬を送り届け、自宅に着くと、へなへなと崩れ落ちる。
時間が経って、きっとまた同じ場所に立ったとき、自分はもうすこし強い人間でいられると思っていた。あの頃の自分は弱くて、惨めで、戦うことを恐れ、逃げていたのかもしれない。けれど、今はあのときと状況が違う。自分のことを病原菌扱いする人間はいなくなったし、周囲と溶け込めているわけではないけれど、それなりに平穏な日々を過ごしていると思っていた。それが、勘違いをしてしまう原因だったのしれない。
──人は、簡単には変わらない。変われるわけがない。
柳瀬と再会して、それを痛いほど痛感してしまった。俺は強くなれたわけでもないし、あの頃の自分となにかが変わったわけでもない。
ただ環境に甘えていただけで、俺はなにも変わっていない。
病原扱いされていた頃と、俺はなにも変わっていないじゃないか。ましてやふたりに守ってもらって、吉瀬にまで言葉を使わせて、俺はなにをやっていたんだ。なにをしていたんだ。
──だから、またこうして、罰がくだったのかもしれない。
「……っ」
目を開けて、すぐに違和感を覚えた。肌寒さを覚え、かけなおそうとして薄いシーツに、手が届かなかった。体が硬直してしまったかのように、ぴくりとも動かない。唯一、瞼だけ持ち上げる動作ができるだけで、手足を自由に動かすことができなかった。視線が泳ぐ。びくびくと、左右、上下に動いては、体が動かないことを痛感する。
喉の奥から声が出ない。ふり絞ってみせても、声が出ていかない。
──初めて、怖いと思った。自分の体が自分の体じゃないみたいで、凄まじい恐怖に襲われた。
意識だけを残して、さらさらと、白い陽の光が部屋を明るくしていく様をじっと見ていた。
ピピピとスマホからアラームが鳴り、視線だけを動かすものの、指一本動くことができない。しばらくその音を聞いていると、勝手に目覚ましの音が止まった。そうか、とめなくてもある程度の時間が経てば止まるのかと、このときはすでに恐怖よりも冷静さを取り戻していたように思う。けれど、アラームは定期的に鳴り続ける。まるで、止めてもらえなかったことへの腹いせのように思えて仕方がない。
どたどたと、部屋の外で聞こえたかと思えば、乱暴なノックが数回響いた。