*
「ボイコットに失敗しそうだ、助けてくれ」
ようやく迎えた昼休みに、購買へと出向いたところまでは良かった。たまたま後ろに並んだのが高岡という悲運を迎えるまでは。
混雑を極めるこの場所で、人との距離はほとんど密接状態。ギュンギュンだ。隣も後ろも距離が近い。腹が減ってるということもあり、気持ちが前に前にと進んでしまうのだろう。前方の人が立ち並ぶ先には、陳列棚に並べられた食料が見える。
「……それはまた大変だな」
「大変も何もやべえって。もう来週なんだよ、歌うの。失敗してる場合じゃねえんだって」
高岡が言うには、あの署名活動に協力したのはどうやら俺だけだったらしい。ほかの生徒も、ボイコットをしようといった提案には盛り上がっていたものの、いざ行動するとなるの怖気づいたのか「え……ほんとうにやるの?」といった本音が漏れていたらしい。
結局、あれは無関係の俺だけがサインしたことになっている。そうと分かればあの時、自分の名前は書かなかったのに。なんだか書き損だ。
「はあ、なんで皆ボイコットしねえんだよ」
「しようなんて考えるのは高岡ぐらいだと思うけど」
「おかしいだろ……歌うの嫌だろ絶対、ボイコットした方がいいじゃん」
ため息まじりの絶望は、ずんと背中に重くのしかかってくる。比喩かと思ったら、本当に高岡の頭が背中にくっついてるのだから驚いた。
『あいつに触ると病気が移るぞ』
途端に思い出される苦い記憶にはっとする。身動き取れないこの場所で、出来るだけ前のめりになると「動くなよ」と文句が聞こえてくる。
人からこうして触れるのは滅多になくて、嫌に鼓動が鮮明に聞こえてくるような気がした。
「触らない方がいいよ」
俺が近くにいるだけで、わーと散らばっていく人の群れ。幼いながら苦しかったあの思い出が、やけに今、強く脳内に映し出されていく。
「ボイコットに失敗しそうだ、助けてくれ」
ようやく迎えた昼休みに、購買へと出向いたところまでは良かった。たまたま後ろに並んだのが高岡という悲運を迎えるまでは。
混雑を極めるこの場所で、人との距離はほとんど密接状態。ギュンギュンだ。隣も後ろも距離が近い。腹が減ってるということもあり、気持ちが前に前にと進んでしまうのだろう。前方の人が立ち並ぶ先には、陳列棚に並べられた食料が見える。
「……それはまた大変だな」
「大変も何もやべえって。もう来週なんだよ、歌うの。失敗してる場合じゃねえんだって」
高岡が言うには、あの署名活動に協力したのはどうやら俺だけだったらしい。ほかの生徒も、ボイコットをしようといった提案には盛り上がっていたものの、いざ行動するとなるの怖気づいたのか「え……ほんとうにやるの?」といった本音が漏れていたらしい。
結局、あれは無関係の俺だけがサインしたことになっている。そうと分かればあの時、自分の名前は書かなかったのに。なんだか書き損だ。
「はあ、なんで皆ボイコットしねえんだよ」
「しようなんて考えるのは高岡ぐらいだと思うけど」
「おかしいだろ……歌うの嫌だろ絶対、ボイコットした方がいいじゃん」
ため息まじりの絶望は、ずんと背中に重くのしかかってくる。比喩かと思ったら、本当に高岡の頭が背中にくっついてるのだから驚いた。
『あいつに触ると病気が移るぞ』
途端に思い出される苦い記憶にはっとする。身動き取れないこの場所で、出来るだけ前のめりになると「動くなよ」と文句が聞こえてくる。
人からこうして触れるのは滅多になくて、嫌に鼓動が鮮明に聞こえてくるような気がした。
「触らない方がいいよ」
俺が近くにいるだけで、わーと散らばっていく人の群れ。幼いながら苦しかったあの思い出が、やけに今、強く脳内に映し出されていく。