朝起きてからのルーティンは、朝食と身支度と、それからクリームを体に塗るということ。紫外線防護クリームを塗ることで皮膚が保護され、皮膚がんになるリスクを軽減する。はっきり言って効果があるのか知らないし、基本的に紫外線を極力浴びないように長袖だったり、マスクをしたりするものだから、このクリーム自体は気休め程度しかない。それでも塗らなかった日は落ち着かないし、太陽の光はなおさら脅威に思えてしまう。
 これだけはどうしても欠かせない。日光を浴びると、死に近付いていくような気がする。ヒリヒリ、ジリジリ、焦がされ、次第に灰になっていくような感じがたまらなく怖い。

「幸人、クリーム塗ったの?」

 朝から不機嫌そうな声がリビングから飛んでくる。仕事で疲れていると言わんばかりの疲労をその声に感じながら「うん」と手短に答え、玄関へと廊下を突き進む。

「もう、朝ぐらいちゃんと食べなさいって」

 振り切ろうとしたその声は、いよいよ扉という壁を突き破るように出てきた。
 眉間にしわを寄せた母親の顔など、朝から見たくなどない。

「朝は食べる気にならないから」
「だからって、昨日の夜だってあんま食べてないでしょ」

 作り置きされていた夕食を、すこしつまんでは流しに放り込んだ。
 食欲はここ最近ない。食べようと思うと、なんだか全身が重たくてしょうがない。

「あんたのこと心配して言ってるんだからね」
「うん……」

 そんなありがた迷惑な善意などいらない。
 さっさと出てしまおうと、ずんずんと歩みを進めた。

『太陽と相性合わないって、そんなもん生まれてから言われたって遅くね?』

 靴に足を突っ込んだタイミングで、どうしてだか高岡の言葉が頭に過った。あの日、ほぼほぼ初めて会話をしたような奴の台詞が、どうも耳に残ってしまったらしい。
 生まれてから言われても、確かに遅いな。
 自嘲にも似た笑みが自然と抜けていった。
 この地球上に、太陽は切っても切り離せないもので、なくてはならないものだというのに、どうして俺は、その太陽と相性が悪いのだろうか。なんでこんな厄介な病が存在するというのか。よりによってそんな病を患わなければいけないのか。
 治療法がないとされてるこの病を、俺は死ぬまで付き合っていかなければならない。
 だからきっと、人生でいろいろなものを諦めてきていたのだと思う。やりたいことが出来ないから、それなら最初からやりたいなんて思わなければいいと。ばらばらと、生えてくる木の幹を削ぎ落して、無理矢理一本にそびえたつ木にしていく。わき見しないように、それてしまわないように、ただただ真っ直ぐ。

 そんな俺が、絵を描こうとしている。描いたこともない絵を、誘われたからという理由だけで受けようとしている。それもこれも、全ては吉瀬という存在が関係しているのだろう。
 向いてる、なんて言われて、戸惑った。そんなわけがない。そんなお世辞を言われたってどう返したらいいか分からない。それでも、彼女の言った通り、絵の道を極めたたえちゃんが、同じように向いてると俺に言った。