「ちぃ、どうしてこの学校を選んだの?」

 授業終わりに全校生徒が一斉に掃除を行う習慣にも慣れ、廊下の掃き掃除をする最中、私のことを「ちぃ」と呼んだ中学からの友人、早紀(さき)がじっと見つめて聞いてくる。

「急になに?」
「だって私が文化祭に誘う前まで、近くの高校一本に決めてたのに、突然受験するって言うから。びっくりしちゃった」
「あー……うん、ちょっとね」

 先端が曲がってしまった箒を上手く使ってゴミを集める。廊下の端に溜まった埃が固まって引きずられていく。窓から入ってくる光の反射で、細かい埃が宙を舞っているのが見えた。
 早紀は少し考えて重ねて尋ねてくる。

「もしかして文化祭のときの絵?」
「……まぁ、うん」
「そーなんだ! ちぃが絵に興味持つなんて思わなかった」

 隠す必要もないため頷くと、早紀が茶化すように騒ぎ出した。

「そう?」
「うん。だってこれといった趣味ないし、休みの日は引きこもりだし。私が連れ出してあげないとずっと出てこないでしょー。そんなちぃが絵? 全然想像できないよ」

 ゲラゲラと笑って、せっかく集めた埃をかき回す。

 私は早紀が苦手だ。
 勝手にイメージを押しつけられているようで、私がすることすべてを大げさに捉え、意外だ、珍しいと私に言う反面、周囲には以前から知っていたように鼻を高くして振る舞う。私が誰かに連れ出してもらわないと外に出ないという認識は、早紀が勝手に持っている私のイメージでしかない。

 これが策略的に行われているのならまだ許せたかも入れない。本人に悪気がないからなおさら質が悪い。関わりたくなくても向こうからやってくる。だから教室に親しい人はいない。

 私は散らばった埃をまた集めて、屈んでちりとりに入れる。これでまた早紀がかき回しても少ない手数で片付けられるだろう。

「でもなんで帰宅部なの? 先輩を探してるなら、部活に入ったほうが絶対いいって!」
「そんなんじゃないって。バイトで忙しいの」
「はいはい、そういうことにしとくねー……あ、もう戻ろっ!」

 掃除終了のチャイムが鳴ると、早紀は教室へ翻した。その時に持っていた箒の先が、屈んでいた私の目に当たりそうになって避ける。その拍子にちりとりをひっくり返ってしまった。せっかく集めた埃が床に散らばると、「あーあ」と頭の上から呆れた声が聞こえてきた。

「なにやってんのー。もう……ちぃは何もできないね」

 ニヤついた笑みで言っているのが、顔を上げなくてもわかった。適当に返して、私はまた箒を使って散らばった埃を集める。一緒に早紀も手伝ってくれたけど、早く教室に戻ってほしかった。