宿題が出された。
 『好きなモノを一枚描いてもってこい』と、ざっくばらんに言う香椎先輩には頭が上がらない。
 それでも期限付きでなかっただけ良かった。一週間で仕上げられるほど器用じゃないのは自覚している。だからこそ、好きなモノが思いつかない。

 とりあえず庭先に咲いていたパンジーや、目に止まった黒板消しを描いてみたけど、どうもしっくりこない。

「ちぃ、何してんの?」

 授業の合間にスケッチブックを開いて考えていると、早紀がやってきた。話す相手がいなかったらしい。早紀は私の手元からスケッチブックを取り上げた。

「うわースケッチブックじゃん。なんでこんなの持ってるの?」
「……別に持っててもいいじゃん」
「まぁそうだけど! もしかして絵に目覚めちゃったとか? やめときなよ」
「……え?」

「ちぃって別に絵が得意じゃなかったじゃん。コンクールに入賞したのもまぐれだって」

 早紀はほぼ真っ白なスケッチブックを捲って、最近描いたパンジーのスケッチをしたページを開く。しっくりこなかったとはいえ、久々に描くにしては上手く描けた方だと思う。
 それを見て早紀は鼻で嗤った。

「こんなの誰でも描けるでしょ。こんなことやってるから、ちぃはいつまで経っても何も出来ないままなんだよ。……あ、だから進学コースにしたの? 芸術コースは上手い人しか集まらないから?」
「…………」
「もう、そういうことなら早く言ってよ。一人じゃ何もできないから私と一緒の学校にしたのかと思った。本当、自己主張がないよね。もっとちぃは――」

「早紀は偉いの?」

「え?」
「私のやりたいこと全部を否定できるほど、早紀は偉いの?」

 早紀はただ、私を何もできない人間に仕立てたいわけじゃなくて、発する言葉がひねくれていて、判断するものさしが短いだけだ。視野が狭いから、基本軸である自分に則って考える。それがたまたま、私の近くにいただけの話。

 私が言い返したことに驚いて、早紀の顔が歪んだ。中学からの付き合いだけど、私が早紀に反論したのはこれが初めてだ。

「……私、別に早紀がいなくてもできるから」