「ねえ先輩、感想をお願いしたいです」

「今日見た映画の?」

「いえ、違います」

 後輩……心由(ここゆ)は、空を見上げた。

「あの月に関する感想です」

「月……あ、あそこの上弦の月ね」

 僕はうなずいて、まだ午後の明るい空にある月を観察した。

 ほう、やはり、心由に話したのはあんまりよくなかったかもしれない。

 いきなり月のことに関して感想を聞いてきたよ。

 僕は心由を見た。

 少し、申し訳なさそうに笑っている。

   ☆   〇   ☆

 二年前、僕は高校に上がって少し経ったくらいの頃、幼馴染の千沙(ちさ)に恋をしていると自分で気づいた。

 それまでは、普通に幼馴染として親しくしていることがすべてでそれで、大満足だったんだけど、なんだかいつの間にか、なんか付き合いたいとか、そういう風に思ってしまっていたのだ。

 千沙が大人っぽくなったからっているのはあると思う。スタイルも顔も大人びて、魅力が制服に包まれてるなって思うようになった。

 そんな僕は、ちょうど今の時間ごろ、幼馴染に告白した。

 その時の返事が、この午後に見える月だったのだ。

 具体的に言えば、

「遥祐(ようすけ)は、あの月みたいな感じで、いつもそばにはいる。でも恋してはないよ」

 といった感じで。

 せめて、夜の月に例えてほしかったけど、まあしょうがない。

 つまりはフラれてしまったんだから。

  ☆   〇   ☆

「私、意地悪なこと先輩にしちゃってますね」

「まあそうかもな、だって、『どんな感じで幼馴染さんにフラれたんですか?』って聞かれたから僕が話して、それをふまえて昼の月の感想を訊いてくるんだもんな」

「えへへやっぱ質問撤回しますごめんなさい」

 心由はちょっと頭を下げた。今見えてる上弦の月のかたむきくらいだろうか。

 まあそんな謝んなくてもいいんだけど。

 心由、本当に優しいし。

 そんな心由と僕は、二人きりの部活を営んでいる。

 昔話研究会。

 ちなみに昔はもう少し人がいたらしい。

 僕は部室でゆっくりするのが高校生活の醍醐味だと思っている人なので、一番穏やかな部活を探した結果、昔話研究会にはいった。

 まあ穏やかすぎて先輩二人が引退したら僕一人になったんですけどね。

 次の年に心由が入ってきてくれてよかった。

 心由は昔話が本当に好きみたいだ。

 なんか色々な歴史的背景なども詳しい。

 そんな心由は、質問を撤回した後も月を見ている。

 連想しているのは、かぐや姫だろうか。

 そんなことを思っていたら、心由は視線を一気に僕に向けた。

「先輩……今度、川辺で夜に月を見てみませんか?」

「おお、いいよ。おしゃべりしようか。なんか部室とはまた違った雰囲気かも」

「はい。たくさん話したいです」

 心由は嬉しそうだった。僕もうれしい。

 僕と心由は、お互いたくさん話したいと思っている、きっとそんな関係なのだ。