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「はあ、はあ」

 仕事が終わって、電車に乗って最寄り駅について。僕はすごい勢いで、児童館に向かっていた。

 児童館が閉まるのが夜八時。今は七時五十分。

 八時になった瞬間、娘が放り出されるなんてことはないだろうけど、時間を過ぎるのは、申し訳なさすぎる。

「ま、まにあった……」

 僕は息を整えながら、児童館の入り口をくぐった。

「あ、お疲れ様です」
 
 児童館の先生がこちらに来た。

「すみません。遅くなりました」

「いえいえ、あかりちゃん、プラネタリウムが大好きで、今日もみんなが帰った後はずっと見てたんですよ」

「そうですか」

 僕とひかりが天文部にいたころから、十二年がたった。それでも、まだ、プラネタリウムは児童館の子供たちを楽しませている。

「あ、パパおかえり~」

「ただいま、あかり。帰ろうか」

「うん」

 僕とあかりは、手をつないで夜道を帰っていた。あかりは、今日楽しかったこと、いやだったこと、色々順番に話してくれた。

 家の近くまで来た時、プラネタリウムの話になった。

「きょうね、私、せいざずかんと見くらべながらプラネタリウム見たよ」

「おお、そうか」

「そしたらね、あのプラネタリウム、ところどころざつなんだよ」

「雑、か……」

 まあ高校生が作ったものだし、そうだろうな。

「私の今日の一番の発見は、さそり座がゆがんでるってことだよ」

「ゆがんでる……なるほどな」

 懐かしい。確かあれがゆがんだのは、ひかりが激突したからだ。直そうと思えば直せたと思うけど、そこまでのゆがみではなかったから、ずっとそのままだったのだろう。

 でも星座図鑑と見比べたら、やっぱりちょっと形が違うのかもな。

「どうしたのパパ」

「ううん。ちょっと、思い出に浸ってただけ」

「へー。……あ、ママだ!」

 あかりがぴんと腕を伸ばして手を振った。向こうでひかりが手を振った。

 ひかりとあかりと僕は、ちょうど、家の前で一緒になった。

 あかりは、僕と手をつないだまま、ひかりとも手をつないだ。

「せーので家にはいろ!」

「うん」

「そうしようか」

 僕とひかりは、目を合わせる。あかりからプラネタリウムの話を聞いたせいか、二人きりで最後にあのプラネタリウムを見たことを思い出す。あの時のひかりとのキスは、振り返るだけで、いつだってドキドキしてしまう。

 きっと今の出来事だって、流れ星になるんだ。ちゃんと記憶に残るくらいきれいな、ひかりと僕と、そしてあかりだけしか知らない流れ星。

「行くよ。せーの!」

 あかりが言うと同時に、僕たちは家の中への一歩を踏み出した。