それから、次の日になって。

 一人で登校していた僕は、菜乃葉に声をかけられた。

「おはよー」

「お、おはよう。あれ? 今日は彼氏との登校はどうしたんだ?」

「今日はなし。すごい早い朝練で、朝6時とかに家出るんだってさ。さすがに眠いし」

「ああ……なるほど」

菜乃葉はすごいよく寝る。睡眠を大切にする人なのだ。睡眠をとると、可愛くなって胸も大きくなると演説されたこともある。実際にどうなのかは知らないが。

まあとりあえず菜乃葉は可愛くて胸も大きい。ほんの少しは説得力あるのかなと思いながら、久々に隣に来た菜乃葉を僕は眺めた……ら、びっくりした。

「え、なんで涙目なの?」

 そう。菜乃葉は涙をためて、こちらを見ているのだ。

「ごめん……ちょっと昨日の感動シーン思い出しちゃって」

「え、何の感動シーン?」

「は? 本人が自覚ないとかマジですか? 廃部が決まった天文部の最後の星空観察でカップル誕生の感動があったでしょーが!」

「うーんと、なんでそれ知ってるんだ?」

 ひかりと付き合うことになったのは、菜乃葉にはまだ言っていない。誰にも言ってない。

「あ、こっそり見てたってこと忘れてた」

「おい。何でこっそり見てたんだよ」

「な、なんか気になってさ、ちょっとなんか元気なさそうだったから健吾が」

 菜乃葉が心配そうな口調に変えてきた。あ、そういや、ひかりが僕のこと「先輩」って呼ぶせいで僕の名前初登場な気がするけど、僕の名前は健吾ね。

「僕そんな元気なさそうに見えた……?」

 見えたとしたら、その原因は菜乃葉に邪魔って言われたことだと思うんですが。

「うん、ちょっとね。まあ、幼馴染の私にやっとわかるくらいかな~。で、もしかしたら私が邪魔って言っちゃったせいなんじゃないかと」

「……それかも」

「やっぱり。ごめんね……あのね、なんかちょっと二人でいたいなって思っちゃってはっきりと言っちゃった」

「うん、大丈夫。二人でいたいよな。わかる」

「あ、わかる? もしや今も、もしかして私とじゃなくてひかりちゃんと登校したくてたまらない?」

「いや、今は菜乃葉とでいい」

「ふーん。なんかね、私も今は健吾とでいいかなって思うよ」

「調子いいなあ菜乃葉は」

「あーほんとにそう思ってるのに~。まあいいよそれは。それより、デートとか早速行く感じなの? デート二十三回した私がアドバイスしてあげるよ」

 二十三回も行ったのかよ。それ一日複数回してないですかデート。あ、というか、そもそも付き合う前からデートしてるのか。

 僕とひかりはそもそも天文部の活動以外で二人で何かしたことはない。

 まあそれでも、かなり長い間二人でいた時間はあったんだけど。

 でも、両思いだと分かった後、昨日は少し微妙は雰囲気になってしまった。あれはいったい……。

「おーい。デートとか行くのって聞いてるんですけど」

「あ、ごめん。行く予定ではあるんだけど。でも、なんか少しきごちない感じなっちゃって昨日の最後に」

「へー、なんで? 私と彼氏なんか付き合うってなった時、お互いいろいろ爆発してどこまで行っちゃうか心配になるレベルだったよ」

「どこまでって……すごいな」

「そこに感心しない。ていうかさ、そう言う雰囲気なったんだったらちゃんと解決しないと」

「どうやって解決すればいいの?」

「私に訊いても答えは出てこないよ。昼に星見えないなーって言ってるもんだよ」

 まあ確かにな。ひかりはひかりで、ひかりと菜乃葉はだいぶタイプも違う。

 ひかりと話そう。

 僕は、朝の通学路で、そう決心した。