「キミ転生者? 何してんのこんな所で?」

 村の入口近くでふてくされていると、誰かが声をかけてきた。意味のわかる言葉。日本語だ!

 顔を上げると、白銀の鎧に身を包む少年が立っていた。オレより年下か? いや、体格の感じだと同年代かもしれない。かなり童顔だ。
 後ろには大柄の男とカワイイ系の顔立ちの女の子。全員、日本人のようだ。

「そうだけど……君は?」
「僕は坂江オクト。この世界に送られた転生者だよ」
「転生……君も!?」

 そうか、オレ以外にもここに連れてこられた奴がいるのか。

「どうしたのー? 村に入らないの?」

 オクトの後ろに立つローブの女の子が声をかけてきた。手には木の杖を握っている。その姿はRPGで見かける魔導師そのもの。パーティーの後方支援と言ったところか?

「入るも何も……言葉通じなくて門番が入れてくれないよ」
「言葉が? ははぁ。さてはキミ、女神にスキル付け忘れられた系?」
「スキル? スキルなら持ってる。女神はSSR級だって言った」
「ちがうちがうちがう」

 オクトに背後にいるもうひとりが首を振る。体格はオクトやオレよりガッシリとしていて坊主頭、肌は日焼けで浅黒い。元の世界では高校球児か何かだったのだろうか? 重そうな鎧に身を包んでいるその姿は、パーティーの前衛としてタンク役をやっていそうな雰囲気だ。

「ガラガラポンじゃなくて、全員に付与される方。自動翻訳スキル」
「じどうほんやく……」

 なんだそれ、聞いてないぞ?

「ああ、やっぱり知らないのか。あのテキトー女神め」

 坊主頭はため息をつく。そしてオクトが話し始める。

「転生者がこの世界の言葉を聞いたり読んだりするときは、元の世界の言葉に自動的に翻訳されるスキルが付与されるんだ。だから本当なら、村人の言葉はキミには日本語に聞こえるはず」
「はぁ!?」

 何だそれ? この世界で生きるには必須じゃねえか!

「この世界に来た日本人は多いけど、時々いるんだよね。スキル付与漏れが」
「……そのスキル持ってない奴は、どうすればいいんだ?」
「うーん、二つに一つかな?」

 オクトは、人差し指を真下に向けて言う。

「ここで野垂れ死ぬか……」

 続いて、くるりと指を真上に向ける。

「どこかのパーティーに加わって、魔王討伐の冒険に旅立つか!」
「どこかのパーティーって……?」
「ん、たとえばウチとか?」

 女の子が言う。

「オクト、いいよね!」
「もちろん。仲間が増えるのは大歓迎!」
「よーし決定だ!」

 丸坊主の男が手の平をこちらに向けてきた。ハイタッチをしようって事か?

「オレの名前は飯房(いいぶさ)アグリだ! パーティーの前衛をやってる」
「杉白ゲンです……よろしく」

 オレはアグリの手のひらを叩こうとする。その瞬間、その馬鹿でかい手が弾けるように動き、バシンと俺の手を弾き飛ばした。

「痛ってェ!?」
「ハハッ! 足引っ張るなよ新人!?」
「ったくアグリは! 転生したばっかのコにそーゆーこと言わないの! アタシは椎名ジュリア。魔法で後方支援やってるんだ♪」

 今度は魔導師の女の子が手を差し伸べてくる。その顔をよく見ると、カワイイ()どころではなく、正真正銘可愛いルックスだった。
 オレは恐る恐る握手をする。アグリとは対象的に細く白く、柔らかい手だった。女子の手をにぎるなんて、中学のフォークダンス以来かもしれない 。

「よし! 新メンバーも加入したことだし、村に入ろう!」
「ここにあるといいな、例のモノ」
「大丈夫よ。この辺りの自然は、生命力が溢れている。良質なマナが溢れている証拠よ」

 例のモノ? 何のことかはわからないけど、とにかくオレは三人の後についてく事にした。