*  *  *

「おさ つれてきた」

 オレはキンダーに背中を押されるようにして、聖石堂の中に入った。村長もそれに気づき、こちらを向く。

 聖石堂の中は薄暗い。初めて訪れたときの昼間の太陽のような光はない。その源である3つの聖石はオクトたちと……オレが持ち去ってしまった。

「せいせき みろ ゲン」

 村長が祭壇を見上げる。そこには、オクトから取り返した聖石のかけらがそなえられている。その光はあまりにも弱々しかった。

「つちのせいせき すこし のこった でも かぜ と みずの せいせき ない」

 聖石が放つマナには、属性のようなものがあるらしい。オレがオクトから取り返したのは「土」の聖石のかけらだったそうだ。のこりの二つは「風」と「水」との聖石だ。
 この村の場合、3つの聖石がマナのバランスを調整することで周辺の環境を豊かにしている。村人たちから得た断片的な情報からリョウやハルマはそう推測していた。

「かぜの マナ なくなる かぜ ふかない あまぐも かわしも に いつづける」

 川の下流では、あのときのような大雨が未だに降っている。風が止まり、あの地域に停滞しているらしい。おかげで街道は使えなくなり、行商がこの村を訪れることはなくなった。

「みずの マナ なくなる かわの さかな きえた」

 逆に、この村の周辺には二ヶ月間ほとんど雨が降っていない。その上、水の聖石が失われた影響で川の水質が徐々に悪くなっている。
 聖石が失われた直後から、村人たちは用水路を堀り、新しい溜め池も造っていた。が、その溜め池の水から異臭が漂い始め、農作業に使うべきか村人の間でも議論になっている。

「いずれ このむら ウィー おとずれる」
「ウィー……?」

 村人たちは"夜"の事を『ウィー』と呼んでいる。けど、話の流れ的に別の意味だろう。

「きえた せいせき ひとつなら のこりで おぎなえる でも のこったの はんぶん だけ これから つちも くさる それが ウィー」

 本当なら『ウィー』なる言葉について、メモを取り出して詳しく聞きたいところだけど、そんなことが出来る流れじゃなかった。村の滅亡やそれに近いニュアンスの言葉、それが夜の同音異義語『ウィー』なのだろう。

すみません(カシュナスム)……」

 オレは村長に頭を下げる。知らなかったとはいえ、村を窮地に立たせた責任はオレにもある。

「おまえ かけら とりかえした それ かんしゃ けど……」

 村長はオレの肩に手を置いた。

「ふたつのせいせき つぐなう よいか?」
「なんでも します! どんなこと します!!」

 何度もオクトを探し出して聖石を奪い返そうと考えた。けど、今の言葉の理解度では見つけるどころか、この世界を旅することすらおぼつかない。そう言われてリョウやアツシから反対されていた。まずは言葉をちゃんとマスターするのが先だと。

 他にこの村を助ける方法があるなら、償う方法があるなら、ずっとそれを考えつづけていた。

「なら あたらしい せいせき さがせ」
「は?」

 オレは頭を上げた。新しい聖石……?

「このむらの まわり どこかに マナ あつまる ばしょ あるはず そこに あたらしい せいせき うまれる むかしから だいち そうして うまれかわる」

 どこかに新しい聖石が発生している……? それを見つけて保護すれば、この村は助かる……そういうことか?

「やります! あたらしい せいせき かならず みつけます!!」