俺はスマホに送られてきた、北神 ほのかの自作BLマンガを読んでいた。
内容と言えば、これまた酷いストーリーだった。
ノンケの少年と普通の少女が公園をデートしていたら、大柄のおっさんに拉致され、
少女を縄で縛ると、おっさんが襲った相手は……少年の方。
「いや……この時点で何かおかしい」
事を終えたおっさんが「悪く思うなよ、坊主」と言い残し、去る。
ゴミのように扱われ、心身共にボロボロにされた少年は気がつく。
『自分はホモだったんだ……』と。
そして、縛られていた少女を残し、襲ってきたおっさんの行方を探しに、夜の街へと繰り出すのだった……。
完
「……なんだ、この胸糞展開」
俺は自身でも暴力描写が多いライトノベル『ヤクザの華』などを書いていたが、こんな美のない暴力は反対だ。
しかも、デートしていた少女を助けず、襲ったおっさんを求めている時点でこの少年は終わっているだろう。
正直、読んでいて胃が痛くなってきた……。
これがラブコメに活かせるのか?
北神がこんなものを夜のおかずにしていると思うとゾッとする。
そのほかの作品もだいたいそんな酷い設定やストーリーばかりで、基本おっさんが襲うものばかりだった。
決まって狙われるのはノンケ少年。
「もう嫌だ!」
俺は北神が送ってきたマンガを閉じた。
母さんの作品を何度か見てきたが、BLとはここまで奥が深いとは……。
これは本当に娯楽なのか? 苦行だろう。
まあしかし同じ作者として言うならば、もう少し画力を上げてほしいものだな。
とりま、感想でも送ろっと。
俺は北神に早速メールでBLマンガの感想を送った。
『全部、読んだぞ』
すぐに返信がくる。
『感想は? どうだった? 抜ける?』
抜けるか、バカヤロー!
『俺はそっちの気もないし、BLもあまり詳しくはないが、まあ凌辱ものとしてはいいんじゃないか? 少年が哀れで……』
というか、その後が心配。
『でしょ!? ショタを襲うおっさんがいいよね~』
よかない。
『まあ、あとは画力の方だ。少年の方はまだいいとして、おっさんが描写不足だと思う』
少女マンガとかでありがちだが、男性らしさが欠けていた。
例えば、青年のキャラにしわだけを足したような男なのだ。
おっさんというカテゴライズにおいて、汚らしさ、臭そう、ヒゲなどは重要だろう。
『そっか……ヒロインのおっさんがか。どうすればいいかな?』
え!? おっさんがヒロインなの?
『俺はマンガ家じゃないからわからん。しかし何においても取材は肝心だと思う。つまり街を歩くおっさん、特にきったねぇなコイツ! って思うオヤジをモデルにしたらどうだ?』
一体なんのアドバイスをしているんだ、俺は……。
『なるほど! さすがDO・助兵衛先生だね! BLの大御所!』
誰が大御所だ!
『今日のところはこれでいいよ。ありがとう、琢人くん。おやすみ』
なんだろう、下の名前で呼ばれて、変態JKだが、ちとドキッとした。
BL作家、変態女先生の感想を書き終えると、俺はリビングに向かった。
スマホをテーブルに置き、キッチンに入る。
喉が渇き、冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出す。
コップに注いで飲んでいると、母さんもリビングに入ってくるのが見えた。
「うええ~ タクくん、進捗はどうですが~」
手に持っているのはジョッキグラス。
眼鏡が傾いている。
この様子だとかなり飲んでいるな、この母親。
「母さん、また飲んでいるのか?」
「いいでしょ~ かーさん、六さんいないから寂しいんだもん」
あ、忘れていた、六さんね。
六弦とかいう、無職のクソ親父ね。
「ちょっとぉ、いい? 氷、取りたいのぉ」
足がフラフラしている。これが毎日だ。
完全にアル中だよな。
「貸せよ。俺が入れるから」
酔っ払いにやらせると後が怖い。
この前なんか氷と思って、きゅうりをジョッキに入れて「うまい、うまい」言うて朝まで喜んでいたもんな。
「優しいのねぇ……タクくんは。本当に六さんに似ているわ……」
テーブルに腰をかける。
酔っぱらってはいるが、この様子だとかなり親父のことで落ち込んでいるようだ。
まあ母さんも一応、女だしな(BLの変態だけど)
冷蔵庫から大きめの氷をジョッキ一杯に入れてやる。
グラスを雑にテーブルにドンッ! と置く。
「ほれ、入れたぞ」
「うーーん」
気がつくと母さんはジョッキよりも他のことに関心が移っていたようだ。
その視線は俺のスマホにある。
「な! 母さん、なに人のスマホを見ているんだ! プライバシーの侵害だぞ!」
それ、思春期の子供に一番やっちゃいけないやつだよ?
「いいじゃん、タクくん~」
うわぁ、めんどくせーな、酔っ払い。
そう言ってヘラヘラ笑うと俺のスマホをいじり倒す。
「さいぎんさ~ タクくん、毎日のように外で誰かと会っているじゃーん。母さんにも紹介してよ~」
鋭い……だが、それだけはご勘弁願う。
「母さんには関係ないだろ!」
語気が強まる。
これはきっとアンナという隠したい存在が俺を感情的にさせているんだ。
「まっ! タクくんたら今頃反抗期なの?」
ちゃうわ。
「うわーん! 私のBL子をノーマルにする女は誰よ! こうなったらメール見てやるぅ!」
泣き叫ぶと母さんは俺のメールアプリを開いてしまった。
そこに写ったのは……北神 ほのかという名。
「この子ね! 私が大事に育てたBL子をノンケの世界へと誘惑するどビッチが!」
いや、北神は限りなくお前の界隈だろ。
メールの内容を見て、沈黙する。
「母さん、もういいか? その子はただの友達だよ、クラスメイト」
こんな変態JKと誰が恋愛関係になるかよ……。
死ぬだろ。
「……」
黙り込んで、スマホを凝視する。
「どうしたんだ? 母さん……」
俺もスマホを覗くとそこはもうメールの文章ではなく、添付されていた北神のBLマンガだった。
ヤベッ、削除しとけばよかった。
「なん……てことなの!?」
口に手を当てて驚きを隠せない琴音さん。
「これな、酷いマンガだろ? 彼女の自作らしい」
さすがの母さんもこんな凌辱ものは受け付けないだろう。
「…こ、これは……天才よ!」
傾いていた眼鏡を直し、まじまじとマンガを何度も読み直す。
急に目がキラキラと輝きだすのが俺でもわかる。
父親がいなくてさびしかったんじゃないのか?
「こんな美しい愛は見たことがないわ! ちょっと、タクくん。スマホ借りるわね」
「え? ちょ、ちょっと。俺のだぞ……」
そう言った後には、時すでに遅し。
母さんの動きは早かった。
自室に戻って5分でプリントを終え、ホッチキスで簡易的ではあるが製本を終えていた。
「タクくんが買ってきてくれたBL同人も良かったけど、この『変態女』先生の作品は最高だわ!」
なんて輝かしい笑顔なんだ……。
まあ落ち込んで酒ばかりに逃げる母さんより、BLで笑ってくれる母さんの方がマシかな。
「そ、そうか……勝手に布教すんなよ。それ、俺が書いたやつじゃないし」
書きたくもないし。
「わかっているわ! この先生はいずれ必ず商業界にまで昇り詰めるお人よ!」
ええ、俺も一応、商業出ているんすけどね……。
北神の方が上なのかな、自信無くすわ。
「この子をお嫁にもらいなさい!」
迫真、真島のゴッドマザー。
顔が怖い。だが断る。
これ以上、家に変態が増えるのはごめんだ。
「なんで母さんが俺の嫁を決めるんだよ?」
ちょっとイラッとした。
「え? 他に好きな子でもいるの?」
問われて、戸惑った。
母さんに言われて、すぐに思い出したのは古賀 アンナ。
彼女の笑顔が脳裏から離れない。
「べ、別にいないよ!」
そう言うと俺は母さんからスマホを奪い取り、逃げるように自室へと走り去る。
「ちょ、ちょっと、タクくん……」
母さんの反応は気がかりだが、敢えて無視した。
なぜならば、俺の頬が熱くなっていて、今、母さんに見られるときっと何かを感じ取られると思ったからだ。
ドアを閉めて、ベッドの梯子に手をかけた瞬間だった。
「おにーさま、顔が赤いですわよ?」
忘れてた、かなでが同室だったんだ……。
「おっ母様に自家発電しているところでも見られたんですの?」
ああ、妹がバカでよかった。
内容と言えば、これまた酷いストーリーだった。
ノンケの少年と普通の少女が公園をデートしていたら、大柄のおっさんに拉致され、
少女を縄で縛ると、おっさんが襲った相手は……少年の方。
「いや……この時点で何かおかしい」
事を終えたおっさんが「悪く思うなよ、坊主」と言い残し、去る。
ゴミのように扱われ、心身共にボロボロにされた少年は気がつく。
『自分はホモだったんだ……』と。
そして、縛られていた少女を残し、襲ってきたおっさんの行方を探しに、夜の街へと繰り出すのだった……。
完
「……なんだ、この胸糞展開」
俺は自身でも暴力描写が多いライトノベル『ヤクザの華』などを書いていたが、こんな美のない暴力は反対だ。
しかも、デートしていた少女を助けず、襲ったおっさんを求めている時点でこの少年は終わっているだろう。
正直、読んでいて胃が痛くなってきた……。
これがラブコメに活かせるのか?
北神がこんなものを夜のおかずにしていると思うとゾッとする。
そのほかの作品もだいたいそんな酷い設定やストーリーばかりで、基本おっさんが襲うものばかりだった。
決まって狙われるのはノンケ少年。
「もう嫌だ!」
俺は北神が送ってきたマンガを閉じた。
母さんの作品を何度か見てきたが、BLとはここまで奥が深いとは……。
これは本当に娯楽なのか? 苦行だろう。
まあしかし同じ作者として言うならば、もう少し画力を上げてほしいものだな。
とりま、感想でも送ろっと。
俺は北神に早速メールでBLマンガの感想を送った。
『全部、読んだぞ』
すぐに返信がくる。
『感想は? どうだった? 抜ける?』
抜けるか、バカヤロー!
『俺はそっちの気もないし、BLもあまり詳しくはないが、まあ凌辱ものとしてはいいんじゃないか? 少年が哀れで……』
というか、その後が心配。
『でしょ!? ショタを襲うおっさんがいいよね~』
よかない。
『まあ、あとは画力の方だ。少年の方はまだいいとして、おっさんが描写不足だと思う』
少女マンガとかでありがちだが、男性らしさが欠けていた。
例えば、青年のキャラにしわだけを足したような男なのだ。
おっさんというカテゴライズにおいて、汚らしさ、臭そう、ヒゲなどは重要だろう。
『そっか……ヒロインのおっさんがか。どうすればいいかな?』
え!? おっさんがヒロインなの?
『俺はマンガ家じゃないからわからん。しかし何においても取材は肝心だと思う。つまり街を歩くおっさん、特にきったねぇなコイツ! って思うオヤジをモデルにしたらどうだ?』
一体なんのアドバイスをしているんだ、俺は……。
『なるほど! さすがDO・助兵衛先生だね! BLの大御所!』
誰が大御所だ!
『今日のところはこれでいいよ。ありがとう、琢人くん。おやすみ』
なんだろう、下の名前で呼ばれて、変態JKだが、ちとドキッとした。
BL作家、変態女先生の感想を書き終えると、俺はリビングに向かった。
スマホをテーブルに置き、キッチンに入る。
喉が渇き、冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出す。
コップに注いで飲んでいると、母さんもリビングに入ってくるのが見えた。
「うええ~ タクくん、進捗はどうですが~」
手に持っているのはジョッキグラス。
眼鏡が傾いている。
この様子だとかなり飲んでいるな、この母親。
「母さん、また飲んでいるのか?」
「いいでしょ~ かーさん、六さんいないから寂しいんだもん」
あ、忘れていた、六さんね。
六弦とかいう、無職のクソ親父ね。
「ちょっとぉ、いい? 氷、取りたいのぉ」
足がフラフラしている。これが毎日だ。
完全にアル中だよな。
「貸せよ。俺が入れるから」
酔っ払いにやらせると後が怖い。
この前なんか氷と思って、きゅうりをジョッキに入れて「うまい、うまい」言うて朝まで喜んでいたもんな。
「優しいのねぇ……タクくんは。本当に六さんに似ているわ……」
テーブルに腰をかける。
酔っぱらってはいるが、この様子だとかなり親父のことで落ち込んでいるようだ。
まあ母さんも一応、女だしな(BLの変態だけど)
冷蔵庫から大きめの氷をジョッキ一杯に入れてやる。
グラスを雑にテーブルにドンッ! と置く。
「ほれ、入れたぞ」
「うーーん」
気がつくと母さんはジョッキよりも他のことに関心が移っていたようだ。
その視線は俺のスマホにある。
「な! 母さん、なに人のスマホを見ているんだ! プライバシーの侵害だぞ!」
それ、思春期の子供に一番やっちゃいけないやつだよ?
「いいじゃん、タクくん~」
うわぁ、めんどくせーな、酔っ払い。
そう言ってヘラヘラ笑うと俺のスマホをいじり倒す。
「さいぎんさ~ タクくん、毎日のように外で誰かと会っているじゃーん。母さんにも紹介してよ~」
鋭い……だが、それだけはご勘弁願う。
「母さんには関係ないだろ!」
語気が強まる。
これはきっとアンナという隠したい存在が俺を感情的にさせているんだ。
「まっ! タクくんたら今頃反抗期なの?」
ちゃうわ。
「うわーん! 私のBL子をノーマルにする女は誰よ! こうなったらメール見てやるぅ!」
泣き叫ぶと母さんは俺のメールアプリを開いてしまった。
そこに写ったのは……北神 ほのかという名。
「この子ね! 私が大事に育てたBL子をノンケの世界へと誘惑するどビッチが!」
いや、北神は限りなくお前の界隈だろ。
メールの内容を見て、沈黙する。
「母さん、もういいか? その子はただの友達だよ、クラスメイト」
こんな変態JKと誰が恋愛関係になるかよ……。
死ぬだろ。
「……」
黙り込んで、スマホを凝視する。
「どうしたんだ? 母さん……」
俺もスマホを覗くとそこはもうメールの文章ではなく、添付されていた北神のBLマンガだった。
ヤベッ、削除しとけばよかった。
「なん……てことなの!?」
口に手を当てて驚きを隠せない琴音さん。
「これな、酷いマンガだろ? 彼女の自作らしい」
さすがの母さんもこんな凌辱ものは受け付けないだろう。
「…こ、これは……天才よ!」
傾いていた眼鏡を直し、まじまじとマンガを何度も読み直す。
急に目がキラキラと輝きだすのが俺でもわかる。
父親がいなくてさびしかったんじゃないのか?
「こんな美しい愛は見たことがないわ! ちょっと、タクくん。スマホ借りるわね」
「え? ちょ、ちょっと。俺のだぞ……」
そう言った後には、時すでに遅し。
母さんの動きは早かった。
自室に戻って5分でプリントを終え、ホッチキスで簡易的ではあるが製本を終えていた。
「タクくんが買ってきてくれたBL同人も良かったけど、この『変態女』先生の作品は最高だわ!」
なんて輝かしい笑顔なんだ……。
まあ落ち込んで酒ばかりに逃げる母さんより、BLで笑ってくれる母さんの方がマシかな。
「そ、そうか……勝手に布教すんなよ。それ、俺が書いたやつじゃないし」
書きたくもないし。
「わかっているわ! この先生はいずれ必ず商業界にまで昇り詰めるお人よ!」
ええ、俺も一応、商業出ているんすけどね……。
北神の方が上なのかな、自信無くすわ。
「この子をお嫁にもらいなさい!」
迫真、真島のゴッドマザー。
顔が怖い。だが断る。
これ以上、家に変態が増えるのはごめんだ。
「なんで母さんが俺の嫁を決めるんだよ?」
ちょっとイラッとした。
「え? 他に好きな子でもいるの?」
問われて、戸惑った。
母さんに言われて、すぐに思い出したのは古賀 アンナ。
彼女の笑顔が脳裏から離れない。
「べ、別にいないよ!」
そう言うと俺は母さんからスマホを奪い取り、逃げるように自室へと走り去る。
「ちょ、ちょっと、タクくん……」
母さんの反応は気がかりだが、敢えて無視した。
なぜならば、俺の頬が熱くなっていて、今、母さんに見られるときっと何かを感じ取られると思ったからだ。
ドアを閉めて、ベッドの梯子に手をかけた瞬間だった。
「おにーさま、顔が赤いですわよ?」
忘れてた、かなでが同室だったんだ……。
「おっ母様に自家発電しているところでも見られたんですの?」
ああ、妹がバカでよかった。