急遽、ひなたの家で風呂に入ることになった俺氏。

 真っ白でカビ1つないキレイなバスルームに二人の男が向かい合って、浴槽に浸かっている。
 ラブコメ的な展開なら、相手は女子高生であるひなたが、バスタオルを巻いて。

「センパイ、お背中流しますね♪」

 と期待していたが……。

 目の前にいるのは、ひなたちゃんのパパさん。

 ひなたから、彼の年齢は50歳と聞いていたが、ボディビルダーのような屈強な肉体だ。
 そして、剛毛。
 胸毛がもじゃもじゃ。

 腕を組み、ジッと俺を睨んでいる。

「……」
 
 かれこれ、30分間はこの沈黙が続いている。
 一体、なにがしたいんだ? このお父さんは……。

 仕方ないので、俺から話しかけてみる。

「あ、あの……パパさん?」
 太い眉毛がピクッと動いた。
「新宮くん。私はね、ひなたを大事に育ててきたつもりなんだ」
「えぇ……そんな風に見えますよ」
 この流れだと「だから娘に近づくな」的な感じで怒られるんだろな。

「私たち夫婦は中々、子宝に恵まれないでね。やっと生まれてくれたのが、ひなたなんだ」
「はぁ」
「妻も年だから、次の子は生めなくてね……」
 一体、俺は何を聞かされているんだ。
 パパさんの話はまだまだ続く。

「私という人間は、曲がったことが大嫌いなんだ。妻しか愛せない男なのだよ。でも、赤坂家の跡取りは欲しいんだ。だからといって、妾とか、不倫とか、ダメだろ?」
「ど、どういうことですか?」
「ううむ。当初、妻のお腹に赤ん坊が出来た時、私は絶対に男が生まれると信じていた。しかし、生まれたのは女の子のひなただ」
「?」
「だから、私はひなたを赤坂家の跡取りとして、男のように育ててしまったのだよ」
「はぁ?」
 思わず、アホな声が出てしまう。

 大の男同士が、素っ裸でなにを話し合っているんだ。

 パパさんは、咳払いをして、俺の肩を掴む。

「新宮くん! 君に赤坂の男になってほしいんだ!」
「……なんですって?」
「だから、ひなたを嫁にもらって……いや、君が欲しいんだ! 赤坂の息子になって欲しい!」
「ちょっと、言っている意味がわからないんですけど」


 その後、詳しい事情をパパさんから聞いたが。
 夫婦が高齢のため、ひなたしか産めなかったから、悔いがあるそうだ。
 そして、赤坂と言う家は、ああ見えて、福岡の有名な武将の子孫らしい。
 だからパパさんは、跡取りが欲しいが。男勝りなひなたでは、婿を迎え入れることは、不可能だと思い込んでいたようだ。

 しかし、最近になってから、急にファッションやアクセサリーなどに変化があり。
 両親から見ても、好きな男が出来たと感じていたらしく。
 少しでも早くその相手を見たくて、仕方なかったそうな……。


「新宮くん! 聞けば、君は作家なのだろう!」
「まあ……あんまり売れてないですけど」
「売れてようが、売れてまいが関係ない! 大事なのは君の繫殖能力だ!」
 そう言って、俺の股間をダイレクトに掴む。
「ヒッ!」
 思わず悲鳴をあげてしまう。
「うむ! 実に若々しい。君ならば、必ずひなたを落とすことができるだろう」
「えぇ……」
「今晩、泊っていきたまえ! 既成事実を作ってから、結婚しても良いじゃないか」
 
 俺は呆れていた。
 年上の親御さんとはいえ、正直に言いたかった。
「お前、バカだろ」って。