「いつつ……」
激しい腰の痛みで目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開けば、見知らぬ白い天井が。
どこからか、小鳥のさえずりが聞こえてきた。
部屋の中は薄暗く、辺りを確認することは難しい。
ふと、左手に目をやると、一筋の光りが差し込んでいた。
きっとカーテンだ。陽の光がもれているのだろう。
腰をさすりながら、ゆっくりと起き上がる。
起き上がる際に、バランスを取るため、床に手をやって支えると……。
プニッ。
偉く柔らかい。
布団か?
いや、違うな。
布団にしては、ふわっとしてない。
そして……柔らかいというか、硬い。
あれだ。人間の素肌。そして骨のような感触。
しばらく、その感触を確かめていると。
「う、うぅん……」
可愛らしい声が聞こえてきた。
誰か、隣りにいるぞ。
俺は確かめるために、ベッドから立ち上がって、カーテンをジャッと勢いよく開く。
急に部屋が明るくなったため、眩しい。
これまた、見慣れない風景だ。
一面ガラス製の大きな窓。
そして、目の前には1つの川が流れている。
対岸には、大きな建物が。
『カナルシティ博多』
「え……えええ!?」
つい、アホな声がもれてしまう。
「ま、まさか……」
そう言って、振り返るとベッドには、金髪の少女が一人シーツに包まれている。
寝顔さえ、可愛い。
アンナだ。
陽の光によって、目が覚めたようだ。
瞼を擦りながら小さな口を開けてあくびをする。
「ふわぁ」
のんきに背伸びをしている。
「あ、アンナ……俺たちって、まさか」
そう言って、お互いの姿を確認すると。
生まれたばかりの赤ちゃんだぁ♪
なんてこった!
女のアンナはさすがに、シーツで身体を隠してはいるが。
白い素肌が確認できるので、裸体であることは間違いない。
「おはよ☆ タッくん」
優しく微笑むアンナ。
「俺たちって……」
その問いに、少し頬を赤くして恥じらうアンナ。
「うん……タッくんから誘ってくれるとは思わなかったな☆」
ぎゃあああ!
「そ、そんな。一線を越えてしまったのか!?」
博多川を!
「タッくんがアンナを抱きかかえて、連れて来たんじゃん☆ 責任、取ってね……」
「え……なんの?」
俺がそう言うと、彼女は頬を膨らませる
「も~う! 言わせないでよ~ お、お尻……」
「うわあああああ!」
また、あの夢を見ていたのか。
一週間前、アンナとデートして以来、毎日この夢を見る。
きっと彼女が泣きながら、俺に跨ったせいだろう。
童貞の俺には刺激が強すぎたんだ……。
結局アンナは落ち込んだまま、あの日の取材は終わってしまった。
正直、罪悪感でいっぱいなのだが、それよりも泣いている彼女に、興奮している自分を抑えるのに精一杯だった。
なんでか、色っぽく感じちゃったんだもん。
二段ベッドから降りて、学習デスクの上に置いてあったスマホを手に取る。
時刻は、『6:50』
今日、スクリーングの日か。
ちょっと、早いが家を出よう。
真島駅に向かい、近くのコンビニで菓子パンとブラックコーヒーを買う。
駅のホームに入り、電車を待ちながら、朝食を済ませる。
今日は……あんまりミハイルに会いたくないな。
あれだけ、アンナを泣かせたあとだ。
胸が痛む。
きっと、ミハイルも落ち込んでいるに違いない。
いつもなら、取材のあとは決まって、鬼のようなL●NEメッセージを送ってくるのに。
あれ以来、一通も届かない。
ミハイルからもだ。
下らないことでも、なにかと俺に連絡を取ってくる二人が、この一週間なにもない。
自殺でもしてないか、すごく不安だった。
だからといって、俺から連絡するのも怖くて……。
そんなことを思っていると、列車が到着する。
車内に入ると、いつもより早い時刻のせいか、がらーんとしていた。
リア充の制服組も少ない。
こりゃいいなと、ゆったり座席に座る。
「はぁ……今日、学校行きたくねーな」
※
ボーッと窓から景色を眺めていると、ミハイルが住んでいる席内駅に着いた。
自動ドアが開く。
まさか、いるわけないよなって、確認してみる。
いつもなら……「おっはよ~ タクト~☆」なんて元気な笑顔が見られるのだが。
プシュー! と音を立ててドアが閉まる。
その時だった。
ガタン! と鈍い音が車内に鳴り響く。
「ちょっと待って! オレも入る!」
見れば、華奢な体つきの少女だ。
肩だしのロンTに、デニムのショートパンツ。
長い金色の髪は首元で1つに結っており、纏まりきらなかった前髪は左右に分けている。
あ、女の子じゃない。ミハイルだった。
車内に入ってきた彼と目が合う。
「あ」
「あぁ……」
どうやら、お互いに気まずかったようで、列車の時間をずらしていたようだ。
こんなところは似ているんだよなぁ。