一週間後の日曜日。
 俺とアンナは、博多行きの電車内で待ち合わせすることにした。
 以前の花火大会で彼女の居住地がブレブレ設定になり、デートをする時はいとこのミハイルの家に遊びに来ている……ということに。
 いつも通り、地元の真島駅のホームで待つ。
 普通列車がゆっくりと到着し、自動ドアがプシューと音を立てて開いた。
 事前に指定されていた、前から三両目の車内に、その子はいた。

 Aラインの可愛らしいワンピースを着ている。
 胸元には彼女の象徴ともいえる大きなピンクのリボン。
 またハイウエストのデザインなので、自然と胸が目に入る。
 決してふくよかな胸ではないのだが。
 それでも視線が上にあがり、見ていると頬が熱くなってしまう。

 金色の光り輝く美しい長い髪は耳元でリボンを使い、左右に分けている。
 今日はツインテール美少女か。
 生きてて良かった。

 肩から小さなショルダーバッグをかけている。夏らしいカゴバッグだ。
 足もとは涼しげな厚底サンダル。
 透き通るような白い肌、細い二つの脚は国宝級だ。

「あっ、タッくん! おはよ☆」
 俺を見つけた彼女は車内から大きな声で、その名を叫ぶ。
 人目にも気にせず。
 だが、言われて嫌ではない。
 こんなに可愛い連れと仲良くしているなんて。
 むしろ誉れ高き男だ、と周囲にアピールしたいぐらいだ。
「ああ。おはよう、アンナ」
 軽く手を挙げ、車内に入り込む。

   ※

 電車が動き出すと、アンナが手に持っているものに気がつく。
 イチゴの形をした小型の棒……?
「アンナ。それ、なんだ?」
「これ? タッくん知らないの? 今若い子たちの間でバズってるんだよ☆」
 すいませんね。俗世とは無縁の若者で。
「すまん。知らん」
「フフッ、タッくんのそういうところスキ☆」
 なんて小さな口元に手を当てて嬉しそうに笑う。
 あれ? 今告白された?
「?」
 俺が首を傾げていると、アンナは何を思ったのか、自身の胸をグッと俺の腕に押し付ける。
 ピッタリと身体を身体を合わせて、持っていた棒のボタンを押す。
 次の瞬間、ふわ~っと冷たい風が頬にあたる。
「どう? 涼しいでしょ☆ これは扇風機なの」
「おお……これはすごいな! あのバカデカイ機械をここまで小型にし、尚且つ携帯できるとは」
「ホントに知らないんだね、タッくんたら☆ 一台しか持ってないから二人で仲良く使おうよ☆」
 ギュッと俺の左腕に自身の右腕を絡めてくる。
 これは……肘パイというやつか。
 しかし、そう称するには余りにも硬すぎる。
 だが、それでいい!

 大の男が二人でベッタリとくっついて、車内でイチャついているこの光景。
 カオスじゃないですか。
 しかし、俺の肩に小さな顔を乗っけるパートナーに、周囲の人間は誰一人として違和感がないようだ。
 むしろ仲のいい俺たちを見て、睨みつける奴らが多い。

「リア充が! 夏なのにくっついてんじゃねーよ!」
「私だって去年は彼氏いたし……」
「この電車、脱線させようかな」
 最後のやつ、テロリストじゃねーか!

 この空間、嫌いじゃないです。
 むしろ心地よく、いつまでも……時を止めて欲しいぐらいだ。