気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!


 あれは去年の暮れの出来事だった。

「へっくし!」

 俺は例年以上の大雪の中、天神のメインストリートとも言える渡辺通りを歩いていた。
 クソ出版社に通うになってからというものの、少しずつだが通り名もなんとなく把握しつつあった。

「あんのクソガキ、この天才をこんな日に呼びつけるとは何事か」
 そう吐き捨てながら、すれ違う人々を睨む。

「ひっ!」
「不審者!」
 誰がだ? このリア充どもが!
 こんな平日によくもまあこんなにゴミのように集まれるものだ。

「恵まれない子供たちに募金をおねがいしまぁ~すぅ!」

「ちっ、どこの理系女子だよ……」
 数十メートルも一列に並んだ少年少女たちが募金箱を持って、大声で叫んでいる。
 健気なことに皆、薄手の制服で立っていた。

 ダッフルコートを着ている俺でさえ、ガクブルだというのに、これは立派な児童虐待と言えよう。
 彼らの最後尾まで目で追う。
 列の最後に立っていたのは、若い女だった。
 どうやらこの学生たちの責任者だろう。

 だが、俺はここであることに気がついた。
 生徒たちは手足を震わせながら、街行く人々に声をかけている。
 そんなこと、このリア充どもには声など届かん。

 なぜなら、今日は12月24日。
 リア充によるリア充のためだけの特別な日だからだ。
 そう、クリスマスイブ。

 かくいう、この天才も暇を持て余しているわけではない。
 だが仕事となれば、話は別だ。

 暖かい家に帰りさえすれば、「さあ楽しい楽しいパーティーのはじまりだぁ!」がはじまるのだ。

 まあ俺の予定はさておき、この哀れな学生たちを見逃すことがどうにも引っかかる。
 なぜならば、責任者である女は自分だけ、分厚いダウンコートに手袋までしている。
 これだからは大人様は……。


「おい、お前ら学生か?」
「あ、はい! 中学生です。今、募金をしているんです」
「そんなのは見ればわかる」
「よかったら!」
 一人の少年が目をダイヤのように輝かせ、俺にササッと募金箱を差し出す。
 いや、俺はそんなしょうもうない箱に入れる金は持ち合わせてはいないぞ?
 まあチワワみたいで可愛いくも見えるのだが。

「なあ、お前らはこんなクソ寒い大雪の中、一体なにをしている?」
「募金ですけど……」
「それは偽善行為、自己満足でしかないな。お前自身、この行動に何を感じる?」
 少年は俺の問いに戸惑い、隣りの少女に「変な人が来た」みたいな顔で問いを振る。

「あの……私たちは貧しい国の……恵まれない子供たちに暖かい毛布や食事を送りたいんです」
 少女がこれまたダイヤのように純真無垢な目で俺を誘う。
 これは新興宗教か何か?
 騙されんぞ! JCごときにこの俺が屈することなど……。
「そんなのはその国自体に問題があり、政治家にでも任せろ。お前らには一切、関係ない。大人様にでも任せておけ。それこそ、俺たちの知らんところで政府が助けている可能性もある」
 ソースは都市伝説!
「で、ですけど……私たちの気持ちは本物です」
 う、そんなに見つめるな! 可愛すぎるぞ!
「いいか、目を凝らして周りをよく見ろ! お前らは騙されているのだ! これは陰謀だ!」
「陰謀って……」
 JCちゃんの口元が引きつる。
「だがな……お前たちの気持ちだけは認めてやる」
「あ、ありがとうございます♪」
 そう見つめるJCちゃんは頬を赤らめて、手足を震わせている。
 かわいそうで、抱きしめたくなっちゃう!

「あの……お兄さんのお気持ちだけでいいんです……よかったら、募金に協力していただけませんか?」
 募金箱を突き出す。
 なにこれ、新しい武器なの? 殴られたら痛そう。

 俺はため息をつき、「どうしようもないバカだな」と呆れかえる。

「仕方ない」
 そう言うと、JCちゃんとDCくんが顔を明るくさせる。

「「募金、ありがとうございます!!」」

 深々と俺に首を垂れる。

「勘違いするな」
「え?」
「俺は募金するなぞ、一言も発しておらんぞ。そのなんだ……俺にはお前らの方がよっぽど! 恵まれない環境にいるように見えるぞ」
「……?」
「おいそこの女子よ」
「私ですか?」
 DCでも良かったのだが、可愛かったのでJCを指名した。
「お前に問いたい。さっきこう言ったな? 『恵まれない子供たちになんちゃらかんちゃら』と」
 JCちゃんの発言は記憶していたが、恥ずかしいので皆までは言わずした。

「そうですけど……」
「今のお前らを見ろ、すぐにでも凍え死にそうだ」
 左手でアホみたいに並んだガキどもをなぞるように、腕をピシッと伸ばす。
 だが、そんなパフォーマンスにはJCちゃんは臆することもない。

「いえ! そんなことは全然ありません! むしろ私たちは恵まれない子供たちのことを思うだけで、こう……。胸が熱くなってくるんです! だから今もポカポカした気持ちです♪」
 そうは言うけど、今もめっちゃ震えているやん。
 俺はポカポカしているらしいバストに目をやると、ふくらみかけの乙ぱいが最高にイイ感じだ!
 目をそらして、咳払いをする。

「オホン! いいか。お前らのような中学生がなぜこんな所で募金などという偽善行為に加担しなければならないのだ? お前らは見たころ、二年生ぐらいだろ?」
「そうですけど」
 だよね。微妙な乳加減が中二少女って感じです。

「三年生になったらどうする? 当然、高校受験があるだろ。来年もやらないなら、立派な偽善行為だろが! つまりお前らが来年の今頃は、暖かい自宅で受験勉強に勤しむわけだ……」
「そ、それは……」
 JCちゃんの目に涙が浮かぶ。
 ヤベッ、ちょっと言い過ぎたかも? てへぺろ♪


「ちょっと、あなた! うちの生徒になんなのよ?」

 騒ぎを聞きつけ、一人の若い女が俺の前に立ちはだかった。
 コイツが、犯人か……。

「ちょっと、あなた! うちの生徒になんなのよ?」
 寒空の中、薄着で立っている中学生たちとは対照的に、暖かそうなコートで厚着した若い女が、俺に突っかかてくる。

「あなたさっきから聞いていればなんなんですか?」
「率直な感想を言ったまでだ。それと、俺が文句を言いたいのはお前だ、女!」
 俺はビシッと「犯人はお前だ!」的な感じで指をさす。
 決まったな。

「はあ!?」
「お前、こいつらの責任者。つまり担任の教師だろう?」
「そうですよ、ちゃんと保護者の方にも許可を取ってますし、だいたいこの募金は毎年、本校の行事の一つです」
 え……なんてブラック校則。
「そんなもの、さっと今日でやめちまえ! フン、偉そうに語るな! 女!」
 辺りがピリッとする。
 周囲には見物人ができていたが、俺は構わず続ける。

「ガッコウの決まり事だろうが、なんだろうが……だいたい、こいつらはなぜ制服だけなのだ?」
「そ、それは……本校の中学生ですから当たり前です」
 確かにJCの制服は、人間国宝なのは認める。
「意味がさっぱりわからん。なぜ教師のお前だけコートの着用が許され、こいつらは許されていないのだ?」
「ま、迷子にならないため……とか。何より学生である身分が見ればすぐにわかるから……ですよ!」
 女教師は反論するが、しどろもどろだ。
「そんな理由でガキどもをこんな寒い日に! クリスマスイブに立たせるな!」
 少年少女は俺に釘付けだ。
 かっちょええ、俺ってばさ。

「べ、別にあなたには関係のないことでしょ!」
「大有りだ! 視界に入るだけで吐き気がする。だいだいだな、クリスマスイブとかいう日は、いつからこんなクソイベントに成り下がったのだ?」
「はぁ?」
「俺の記憶では……クリスマスイブとはだな。赤いサンタさんが夜中に『ほっほほ、いい子にはプレゼントじゃ♪』と布団におもちゃを置いてくれる優しいおじさんが、わざわざどっかの国からおうちに遊びに来てくれる一大イベントなんだぞ!」

「「「……」」」

 一同、沈黙する。
 あれ? みんなもうサンタさんを信じてないの?

「それがなんだ、街を歩けば、カップル、アベック、彼氏彼女……乱交パーティーじゃないか!」
「あ、あのね、君はいったい何が……」
「まだ話は終わっておらんぞ、女。それだけでも、俺はこの天神を歩く際、イライラがマックスだというのに、こんな偽善行為をされてみろ? 俺が帰ってウハウハしながら、一人パーティーしているのが寂しすぎるだろが!」
 俺の持論に呆れかえる女教師。
「……ねえ、それってあなた自身に問題があるんじゃない? ただのひがみよ。私たちの邪魔するなら帰ってくれる?」
「断じてひがみなどではない! 不愉快なだけだ! それにお前らの方がよっぽど俺の仕事を邪魔しているぞ?」
「しごとぉ? 君、見たところ未成年でしょ?」
 あざ笑うかのように、女教師は俺を見下す。
「だからなんだ?」
「子供は早く帰りなさい!」
「俺は社会人だ!」
 睨みあう二人に、一人の少女が間に入った。

「ケンカはらめぇ!」

 聞き覚えがある。
 幼く甲高い……いや、忌々しく気持ちの悪い声だ。

「DOセンセイ! こんなこところで油売ってないでさっさと打合せしますよ!」

 くっ、おまえが一番「らめぇ」な人間だ、クソ編集白金めが。
 しかも今日のファッションと言ったら、リボンまみれのファーコートだ。
 フードが耳付きとか……。
 こいつ絶対、安い理由で子供服を購入しているだろ?

「センセイ……?」
 女教師とその子分……じゃなかった少年少女がキョトンとしている。
「そうだ、俺はお前と同じ『センセイ様』なのだ! わかったか、この虐待教師が!」
「な! なんですってぇ……」
 女教師は両手で拳を作って、怒りを露わにしている。
「ふん、感情的になるということは、図星のようだな。わかったらお前もさっさとコートを脱げ! そうしたら、今の発言を撤回してやるぞ」
 俺は「やったぜ!」と笑みを浮かべる。
「なんでそうなるのよ!?」
「お前の可愛い生徒たちが震えながら、寒空の中がんばっているのだ。可哀そうだとは思わんのか? 女、教師ならばお前も同じ立場になるべきじゃないか」
「な! ……わ、わかったわよ! そうすれば、あなたは満足?」
 胸元をさっと隠して、頬を赤らめる。

「ああ、大満足だとも……」
「脱げばいいんでしょ!」
「なんかDOセンセイって、いつも人に脱衣させてません?」
 隣りの白金がため息交じりに苦言を漏らす。
「まあ黙ってみていろ、白金よ」

 女教師がコートを脱ぐと、真っ赤なシースルーのワンピースをまとった痴女が現れた。
 胸元もパッカリ開いていて、背中もスケスケ、おまけに国民的アニメの少女のようなミニ丈。
 パンチラ祭りじゃわっしょい!
 これはプレイだ、しかもかなりの高度な放置プレイ!

「これで……満足?」
 そういう女教師は恐らく寒さからではなく、恥ずかしさから顔を赤らめて、小刻みに震えている。
 胸元を隠し、身体を丸めている。
 これも寒さからの行為ではあるまい。
「ほう……これはこれは、いい趣味をしてらっしゃる。さすがは大人様だな!」
 俺は手を叩いて歓喜した。
 すると周囲からも拍手があがる。

「ヒューヒュー!」
「いいぞ姉ちゃん!」
「そんな格好されちゃ、おっ立って募金したくなってきた!」
 ふっ、これが琢人マジック。
 てか、最後のやつ、アウトじゃん。

「胸デカッ、エロッ! まるで痴女じゃん……」
 白金も唖然としていた。
「こ、これは彼氏が……」
 生々しい言い訳だった。

「「せ、先生……」」

 少年少女が「見ちゃいけないものをみちゃった……」って顔で女教師を見つめる。

「傑作だな、先生さんよ。つまりはあれだ。あんたは彼氏のご趣味でプレイ中だったわけだ!」
 俺が高笑いしていると、次々とギャラリーが増え、もうこれはコスプレ会場ですな。

「少年少女よ!」
 そう叫ぶと、一斉に視線が集まる。
「この先生はな! 君たちには『通年行事だ』とぬかしつつ、肌寒い制服で募金させていた! だが、自分は教師という身分でありながら、このハレンチな格好で絶賛、羞恥と放置のミックスプレイ中だ!」
「プレイとかじゃないわよ!」
 女教師のツッコミを無視し、続ける。

「このあと、君たちが信頼していた先生は楽しい楽しいデートが待っている……そう、つまり彼氏に『ねぇ、キミは可愛い生徒たちの前でこんな恥ずかしい格好して募金してたんだろ? 興奮したろ?』とか言われ、センセイは『もう待てないわ! 抱いて!』とか言って、ワイン片手にズッコンバッコンなわけだ!」

「「……」」
 純真無垢な生徒たちが汚物を見るかのような目で、痴女を見つめる。

「ち、ちがっ……みんな、違うのよ? 私だって本当に募金したかったのよ? 彼氏とのデートは二の次よ?」
 最後のデートが余計だな。
 こいつら生徒たちからしたら、このあと直帰でパパとママと健全なパーティーをするだけだろ。

「いやいや、先生さんよ。今更、言い逃れはできまい」
 女教師は「ぐぬぬ」と何か言いたげだ。
「そりゃコートを脱げないわけだ。それなら、そうと言ってくればいいじゃないですか、センセイ」
 ヤベッ、笑いが止まらん。
「DOセンセイ、鬼すぎ……」
 白金がぼやくが、俺は無視した。
 こんなにおもしろい大人様は久しぶりだからな。

 俺の高笑いに釣られて、周囲からはクスクスと笑い声が漏れる。
 女教師は顔を真っ赤にさせて、涙目で俺を睨む。

「気に入ったよ、先生。ちょっと、そこの女子よ」
 俺は先ほどまで話していたJCちゃんを呼び戻す。
「え? 私ですか?」
「さ、その募金箱を先生に渡してくれ」
「は、はぁ……」
 少女は首をかしげながら、女教師に募金箱を手渡す。

「これでこそ、平等だ! だから、俺はこのなけなしの金を今からこの先生、一個人に募金することに決めたぞ!」
 高らかに福沢諭吉を一枚、天に伸ばす。
 辺りから「おお!」という周囲の反応が心地よい。

「は? いいわよ、そんな大金。あなた未成年でしょ?」
「先ほども言ったでしょう。俺も同じ『センセイ様』なんですよ。収入はあるのだよ」
 俺はそう吐き捨てると、募金箱に諭吉をそっと入れてやった。
「あ、ありがとうございます……」
 屈辱をかみしめて、頭を下げる女教師。
 ああ、これだから大人様をいじるのは愉快でしかたない。


「もう気は済みましたか? 小説家の『DO・助兵衛』先生?」

 あれ? なんだろうな? なんだっけなぁ……。
 クリスマスイブにふさわしくないバカげた名前が……。
 ツンツンと俺の腰を突っつく白金に気がついた。

「もう気は済みましたか? 小説家の『DO・助兵衛』先生?」
 
 その場にそぐわない名前から、ざわつきだす少年少女たち。

「白金くん、君は誰のことを言っているのかな?」
「いやいや、そんなフザけた名前はあなただけでしょ?」
 白金がジト目になっている。
 ヤバい、こいつの攻撃ターンになっているぞ。

「ハハハ、これだからは子供は……ささ、ママのところまで送りまちょね」
「私はれっきとした成人女性です!」
 クソッ! お前のキモい体型を使って逃げようとしたのに。
「なんのことやら……俺と君はたぶんあれだ。どこかの遊園地で迷子的な出会いをしただけだろう?」
「言い逃れ……できませんよ? センセイだって、さっきあの女性に言ってたでしょが!」
「な、なんのことだ……」
 フケもしない口笛で、ごまかす。

「平等でしたっけ……?」
 ニヤけだしやがった……図ったな!
「センセイのペンネームも暴露してこそ、ここは平等ということですよ。DO・助兵衛先生♪」

 するとどこからか
「プッ、ダッセ!」
「スケベだってさ」
「自分が一番の羞恥プレイだよな」
 俺はそんな性癖を持ってないよっ!

「ガッデム!」
 両手で激しく頭を左右に振り回す。

「あ、あなた……ホントにそんなバカげた名前で活動しているの?」
 女教師が憐れむような眼でこっちを見る。
 あたかも「きっとこの子もいろいろあったのね……」みたいな近所のおばちゃん的な目でみるな!

「そうですよね~ DOセンセイ♪」
「クソガキ、お前あとで覚えてろよ」
「文句はあとで聞きますから、ささっ、お仕事お仕事♪」

 いつか殺す……いや殺すだけじゃ物足りない。
 ここはどっかのロリコン御用達の風俗店に「合法ロリですよ、タダであげます」と性奴隷にしてやろう。

「お前のせいで、俺の評判はがた落ちだ!」
「DOセンセイの評判なんて、ネットでボロカスですよ」
 俺は白金に手を取られ、その場から連れ出される。

 人込みを掻き分け、すれ違いざま何度も
「スケベ」
「ヘンタイ」
「性の権化」
 と、ディスられるおまけつきだ。

 だが、去り際に一つの声で呼び止められた。

「あ、あの……ドスケベ先生!」

 そのストレートすぎる直球は、俺の眉間に直撃し、気絶するところだった。
 俺を呼び止めたのは先ほどのJCちゃんだ。

「おい……そこは『お兄さん』とかでいいんだよ? それに俺はドスケベではなく『DO・助兵衛』だからね」
 そう言い直すと、少女はクスクス笑っている。
「でも、私は素敵な名前だと思いますよ」
 この少女は、中学校であの痴女教師に洗脳とかされているんだろうか。
「あの、これ……忘れるところでした」
 差し出したのは一つの人形。
 フェルト生地のサンタクロースのキーホルダーだった。
「なんだこれは?」
「募金された方には全員にお配りしています。私たちからのクリスマスプレゼントです♪」
 なにこれ、施しを受けたみたいで、こっちが可哀そうなんですけど?
 女子からクリスマスプレゼントもらうなんて、初めてなんですけど!

「これは……手作りか?」
「はい、みんなで徹夜して作りました」
 嫌だ。泣けてきた……。
「そうか、お前らもあんなハレンチ教師じゃ、いろいろと苦労するな」
 俺がそう突っ込むと、また少女はツボにハマり、クスクス笑いだす。
 何がおかしいの?
 あーあれね、ハシ落としたり、駅のハゲ見たりして笑う年ごろね。

「うまく言えないんですけど……きっと、あなたにもいつか……クリスマスを一緒に過ごせるひとが現れると思います」
 少女は満面の笑みで俺を見つめている。
 正直、惚れそう。
 君がそのひとになってくれるの?

「お、俺に……?」
 予想外の言葉に動揺する。
「DOセンセイ、さすがにJCに手を出したらダメですよ~」
 耳元でバカが俺に囁く。

「なぜそう断言できる? 俺はこう見えて、もう何年も友達すらいない。なぜ年下のお前がそうも言い切れるのだ?」
「だって……ふふふ」
「な、なにがおかしい?」
「見ず知らずの私たちに気を使ってくれて……大人の先生に啖呵を切る人、初めて見ましたもん。ドスケベ先生は、きっと優しいひとなんだろなって思いました」
 人の性格を読書感想文のようにまとめるな!

「ま、まあ……俺は白黒ハッキリさせないと気が済まない性分なのでな。お前ら生徒たちだけが薄着なのが、不平等と感じただけだ」
「確かにすぐケンカになっちゃいそうな性格ですね」
「まあ……な」
「でも、私は素敵だと思います。どうかあなたにも良いクリスマスイブを過ごせますように」
 そう言うと、少女はその場で祈りをささげた。
 この子は女神か?
 じゃあ、この場で君が俺の彼女になってくれ!
 俺ならこの子を幸せに、(いっぱいエッチなこと)してあげるのに。


「お、おう……」
「へへ、DOセンセイたらJCに照れてやんの!」
「お前はあとで覚えてろよ」
「あっかんべー!」

 少女は最後まで、俺に手を振っていた。
 だが、彼女言った言葉、なぜかグサッと来た。

 あの少女のセリフはなんの信ぴょう性もないのに、なぜか予言めいたものを感じる。
 なんだこの胸の高鳴りは……。

 例の募金騒動を終えると、俺と白金は天神にある博多社のビルで、次作に向けて打ち合わせを始めた。

「DOセンセイ。それにしても……さっきの女先生への発言は酷すぎですよ」
「なにが酷いんだ? 俺は正論を言ってやっただけだ」
「はぁ……じゃあ原稿を見せてください」
「じゃあ……とはなんだ? おまえが呼び出したくせに、この天才の原稿を提出されることを、光栄に思え!」
「はいはい、じゃあ天才センセイのアイデアをもらいましょうか」
 鼻をほじりながら、話すな!

 俺はリュックサックから、原稿を取り出し、机の上に置く。
 それを白金が「では、拝読させていただきます」と一礼してから、目をやる。
 

 今回のは初めての短編だ。
 原作については俺の発案でほぼストーリーを決めていたのだが、今回は編集の白金から宿題が出た。
 その理由は俺の作品の発行部数が関係していた。
 現在の『DO・助兵衛』作品が単行本にされたのは、残念なことに3冊のみだ。


 処女作。『ヤクザの華』は一冊目こそ、「ライトノベルなのに大人向け」とか「残虐な描写がたまらない」とか、一定数の評価は得られた。
 売り上げも好調だった。
 これは古くからの俺のファンがライトノベルユーザーへの布教が入ってたらしい。
 一巻こそ売れ行きや評判は上々だったのだが、そうはうまくいかない。

 大半のライトノベル読者は二巻で
「つまらない」
「萌えない」
「可愛い女の子がいない」
 など、文句を垂れる始末。
 ネットでもレビューが大荒れ。星がゼロに等しかった。

 三巻でそのクレームを白金が考慮し、「女キャラ出しましょうよ」との強引なテコ入れを行った。
 当然、ヤクザな主人公なわけだから、女も極道なわけだ。
 萌える要素なんて、これっぽちもないに決まっているだろう。
 そして、打ち切り……。


 見かねた編集の白金が「次は、流行りの異世界でやっちゃいましょう!」との提案を元に、今回初のファンタジーを書いてきた。
 自信作だ。
 あの白金も俺の原稿を読みながら、目を光らせている。
 そうかそうか、おもしろすぎるんだな。
 出版決定、重版決定だ。
 夢の印税生活、ヒャッハー!

 だが、俺の予想と反して、原稿を読む白金の顔はどんどん険しくなっていく。

「……」
 読み終えると、眉間にしわを寄せて、こめかみに手をあてる。
 どうやら、なにか言葉に詰まっているようだ。
「今回のはすごいだろ。壮大なファンタジー長編になるぞ」
 俺は胸を張って笑みを浮かべる。
「チッ、クソみえてぇだな……」
「は?」
「クソですよ、キングオブウンコ、ウンコオブジエンド」
 てめぇは、何回クソを連呼するんだ!
 俺の小説は肉便器じゃねー!
「そ、そんなはずは……俺は確かにお前が言った通り、王道の異世界ものを書いてきたぞ!」
「コレがですか?」
 原稿をゴミのように雑に扱う白金。
 酷い! 俺が徹夜で書いた小説を……。

「ちょっと、私が読んでみていいですか?」
「おうとも!」
 すると、白金は小学生が授業参観で「未来の私へ」みたいなキモい喋り方で読み始めた。

 タイトル
『中年ヤクザ。抗争中におっ死んだけど、異世界に転生してユニークスキル違法薬物を使い、世界をハッピーにするぜ!』

 俺の名前は、中毒組の若頭、とらじろう。
 確か、抗争中に俺は……。
 目の前は、真っ白な雲が一面に広がっていた。
 ここは天国か? 

「とらじろう。中毒組のとらじろうよ……」
 一筋の光りと共に、美しい女神が現れた。
「なんだってんだ? ここは……あんたは誰だ?」
「私はこの世界の神です。シャブ中で死んだあなたを召喚したのです」
「ウソだろ……俺は鉄砲の弾食らっておっ死んだんじゃ……」
「いえ、ただのオーバードーズです」
 我ながら、幸せな死に方したんだな。

「そんな、クズのあなたにチャンスをあげます」
「は?」
「この世界を救ってください」
 
 女神が言うには、この世界を魔王から救ってほしいのだとか。
 俺がこの異世界で生きていくため、チートスキルをくれるという。
 だから、俺は現世でも役立ったものを、女神に頼んだ。

 異世界に舞い降りた俺は、まず国王をシャブで操り、城内を違法薬物(ユニークスキル)で腐らせて、マインドコントロールしてやった。
 全兵をシャブ中にして、泡吹きながら魔王軍にカチコミ入れてやるのさ!


「てめぇが魔王組の組長か!?」
 聖剣ドスカリバーを構え、俺は魔王に奇襲をかける。
「人間の分際で……このわしに」
 魔王が毒の息を吐く。
 だが、そんなことに臆する俺じゃない。
 シャブが常に体内に入っているから、いつでもハイなのさ。

「なっ! わしの毒がきかぬだと! 貴様、まさか女神の聖水を……」
「そんなもん使ってねーさ。俺は転生スキルをシャブ漬けにしているのさ! だから毒なんてハイにもらないぜ!」
 魔王は腹を切り裂さかれると、膝をつく。
「このわしが……お前ごときに……」
「ガタガタうるせぇ! お前もシャブを食らえ!」
 
 引き裂いた腹のなかに、真っ白い粉をぶち込んでやった。
 
 一分後……。

「……うわぁい♪ ここはどこ?」
 どうやら、幼児退行しちまったらしいな。
 いきなり末期になるとは、ハッピーな奴だぜ。
「フッ、天国だ!」

 シャブ漬けになった異世界は、違法薬物でみんなハッピーな気持ちになれましたとさ。
 
 了


 読み終えると白金はため息をつく。
「はぁ……」
「泣けるな、ラスト」
 この一か月、慣れない異世界アニメを見て勉強したからな。
 感動もののファンタジー巨編だ。

「バカですか? これのどこが異世界ものなんですか?」
「は? 俺はちゃんと王道にしたぞ? 冒頭で主人公を死なせて、女神からスキルをもらって、魔王を倒し、異世界を救ったじゃないか」

「こんの……アホぉぉぉ!」

 キンキン声が窓ガラスを激しく震わせる。
 思わず、俺は耳を塞ぐ。
 周りにいた編集部の社員たちも同様だ。

「うるさいぞ、貴様!」
「なんで転生するのに、死に方がオーバードーズなんですか!? こんな転生するやつは一般人じゃないでしょ! しかも女神もなんで与えるスキルは違法薬物なんですか? こんなのみんなが憧れるチートスキルじゃないですよっ! このヤクザなら現世でもやれたことでしょ? 読者は非日常的なファンタジーライフを求めているのに、アングラすぎるんですよ! 最後なんて、『違法薬物でみんなハッピーな気持ちになれましたとさ』って、この世界の住人がオーバードーズで全員死んでるでしょうがっ! バッドエンドすぎます!」
「バッドエンドもあれだ。今流行りの『ざまぁ』とか言う王道だろ?」
「邪道! 意味わかってないでしょ、DOセンセイは!」
「「……」」

 そして、俺の原稿はゴミ箱行きになるのだった……。

「じゃあどうする? ジャンル変更するか?」
「そうですね。私は最近考えていたんです。センセイにピッタリのジャンルが」
「俺に?」
「ハイ、それはラブコメです!」
「なん……だと?」
 童貞の俺にそんなものを書くなんて、土台無理な話ってもんだ。
「俺には無理……だよ」
 これまでヤクザものしか、書いてこなかったのに……。
 うなだれる俺の肩を白金が優しくポンと叩く。
 ニコッと笑ってみせるとこう語りだす。

「取材すれば書けるでしょ♪」
「しゅざい……?」
「やっぱりDOセンセイみたいな万年、童貞には経験してもらうのが一番でしょ!」
「俺になにを経験しろと? まさかお前……未成年の俺とセックスさせる気か!」
 白金が顔を真っ赤にさせて反論する。
「んなわけないでしょ! なんで私がDOセンセイと……まあそれもいいですけど。私は今フリーですしね」
 よかない。
 それにお前の恋愛なぞに興味もない。キモすぎる生態にも興味はない。

   ※

「取材の内容とは?」
「ずばり! 胸がキュンキュンするような出会い、恋愛でしょう♪」
 それからの俺は素早かった。
「ごめん、用事を思い出した。帰るわ……」
「ちょ、ちょっと待って!」
 小さくてキモい手が俺にしがみつく。

「やかましい! 誰がそんな戯言のためにクリスマスイブの日に来たと思っている! 仕事だからきたんだ!」
「これも仕事ですよ!」
「取材がか?」
「もちろんですとも♪」
 ふむ、どうせこのバカのことだ。
 何かよからぬことでも考えているに違いない。
 だが、俺もプロだ。話ぐらいは聞いてやらないとな。


「仕方ない。とりあえず、お前の提案だけでも聞いておこう」
「そうでしょ、そうでしょ♪」
 ウインクするな、キモいから。
「つまりDOセンセイの作家としての弱点は、以前にも私が指摘したとおり極端すぎるのです」
「極端?」
「はい、つまりセンセイは、現在ほぼ同年代の若者との交流が皆無ですよね?」
 ニコニコ笑いながらサラッと人の悩みを暴露するな。

「で?」
「だから先生には高校入学をオススメします」
 足元に置いていた自身のリュックを取る。
「帰る」
「だから待ってってば!」
 いちいち十代の男子に触れるな! そんなに欲求不満なのか、こいつは。


「絶対に嫌だ。なぜ俺が受験しなかったと思っているんだ!」
「コミュ障だからでしょ!」
「……」
 いや、偏差値は悪くないよ? ただの人間嫌いだからね。

「だから、それを治すためにも高校にいきましょうよ!」
 なんかバカの白金にしては正論だし~
 しかも俺の治療も含まれてるし~  
「断る。俺はちゃんと青春を謳歌しているしな」
 ゲームと映画でな!

「じゃあ今日、このあとの予定をお聞かせください」
 くっ! やはりこのクソガキ、俺に気があるのでは!
「は? なんでお前にプライバシーを侵害されなければならんのだ?」
「言えないんですか? やっぱり可哀そうなイブを過ごすんでしょうね」
 このパイ〇ン女が!
「良いだろう、ならば答えてやる、しかと聞けよ」
「どうぞぉ……」
 だから鼻をほじるな! 一応お前も女だろ!

「この後、博多社を出たらまずは『自分プレゼント』を選ぶのだ!」
「は? 自分プレゼント? なにそれ、おいしいの?」
「おいしいわ! 一年間、頑張った自分へのご褒美。つまり自分サンタさんがプレゼントを俺にくれるのだ。ちなみに今年はPT4ソフトの『虎が如く8』がプレゼントだ」
 虎が如くはご存じ大人気のヤクザゲームだ!
「へぇ……」
「このあとが大事だぞ。デパートで巨大なチキンを買い、そして宅配ピザを頼む。食べ終わると『さんちゃんのサンタTV』を見つつ、アイドル声優の『YUIKA』ちゃんが女声優たちとクリスマスパーティーしているか、SNSをチェック。聖夜の巡回だ!」

 『YUIKA』ちゃんとは今一番ノリにのっている可愛すぎる声優さんのことだ。

「それって何が楽しいんですか? 一人で寂しくないんですか? たまに『いま、俺ってなにやってるんだろ?』って我に返りません?」
「返るか!」
 ちょっとはある。
「だから、言っているんですよ。DOセンセイはライトノベル作者だというのに、十代の読者が欲しているものがまるでわかってません」
「なんだそれは?」
「一言でいえばラブです」
「なにそれ、おいしいの?」
「おいしいです!」

 ちゃんと試食して言ってる?

「ラブコメと言えば、出会いは突然パンチラから。主人公がこけるとヒロインのおしりがパンツ越しに顔面騎乗。照れるヒロインを止めようとすれば、誤って手のひらがおっぱいをモミモミ……と、このように現実世界とリンクしていることが多々ありますね♪」
 よくもまあ、そんな恥ずかしい言葉をスラスラと……。
「全然リンクしてないだろ! どこのプレイだ! AVだろそれ!」
「絶対ありますって、この世のどこかで……」
 遠い目で現実逃避するな! 戻ってこい!
「お前な……俺は義務教育を九年も受けたが女子のパンチラなんて一回も見たこともない!」
「それはDOセンセイが不登校で半ひきこもりだったからでしょ?」
「今、ひきこもりの話は関係ないだろが!」
 いじめるはよくない!
「大ありですよ、人とののコミュニケーションが足りなさ過ぎて、作品に影響がきてないんですよ」
「う……」
「コミュ障、乙!」
 くそぉ、こっちばかり攻撃されて黙っている俺ではないぞ。


「ならば、白金……今度は貴様の番だ!」
「へ、私?」
「そうだ、お前のようなキモいロリババアなんぞ誰も相手にせんだろ?」
「ロ、ロリババア!?」
「ああ、そうだ。この天才が新しく考えたあだ名だ」
「ただの悪口でしょ! それに私はまだ二十代です!」
「そう、確かにお前は二十代だ。だが四捨五入すれば、晴れて三十代だよな」
「エ~、ワタチ、イミワカンナイ♪」
 今日は白目でベロだしか……。

「勝手にほざけ。世間では二十五歳を超えると『クリスマス』とかいうそうだな? 白金、お前はアラサーでありがなら未だ独身。彼氏の話なんて俺はこの数年きいたこともない。つまりお前は売れ残りのクリスマスケーキと同一だ!」
 白金の額が汗でファンデーションが落ちていく。
「DO先生、どこでその禁句を!? あなた平成生まれでしょ!?」
「フッ、最近、歌手の『チャン・オカムラ・チャン』にハマッててな。『チャン・オカムラ』のアルバムと共に時代を遡っていくとその禁句にたどり着いた」

 チャン・オカムラ・チャンとは、香港出身の日本人歌手だ。
 作詞作曲、全て自分で行い、甘い歌声にキレッキレのダンスが定評のあるスター。
 昭和時代からデビューして、現在も大ブレイク中の芸能人。
 ファンは略して、チャン・オカムラと言う愛称で呼ぶ。

「くっ! 確かに『チャン・オカムラ』の若いころはそんな概念が……。ですが、昨今は三十路で初婚が当たり前! 初産なんかアラフォーが大半ですよ!」
「お前、それは偏見だろ? お前一個人の言い分であって、婚活や恋愛にがんばる女子はお前の年で既に結婚済み、子供だって2.3人は生んでいるだろう?」
 ソースは俺!
「そ、それは、その女子がバリバリ働いてないのよ!」
 うろたえるアラサー。悲愴感ぱねぇ。
「フン、差別だな。そういう考えはセクハラ、パワハラを助長させる。今のご時世、女性差別とかいうのだろう。白金女史よ」
 はい、論破。
「くっ、正論なのがムカつく!」
 ざまあみろ、この俺をいじったのがお前の敗因だ。

「で、その女の子である白金ベイベの本日のご予定は?」
「うう……」
「どうした? さっさと言わんか?」
「きょ、今日は前から欲しかった声優の『マゴ』の写真集を自分にプレゼントします」
 ちなみに『マゴ』とはとあるアイドル声優の愛称である。
 ん? なにこのデジャブ?

「ここからが大事ですよ。デパートで大きなチキン買って、友達の家で宅配ピザを頼んで、「さんちゃんのサンタTV」見たあと、『マゴ』以外の独身声優が男子同士でクリスマスパーティしているか、巡回を……」
「……」
 見つめあうふたり。なんか共通点を感じちゃう。


「お前も俺と同じじゃねーか!」
「同じじゃありませ~ん! 友達と一緒ですぅ」
「ちょい待て、その友達が気になる。まさかとは思うがパソコン画面の『マゴ』を前にイブを祝っているわけではあるまいな?」
 俺がそうだから。
「んなわけないでしょ! 『マゴ』と『チャン・オカムラ』は私の夜の恋人……ってなにを言わすんですか!」
 いや、お前が勝手に語ったんだろが。

「リア友です」
「異性か?」
「お、女の子ですよ? 世間一般で言う女子会、女子トーク、恋バナとかで盛り上がりますね♪」
「白金が恋バナだぁ? ちょい待て。世代は?」
「二十代ですけど」
「アラサーで同い年だろ?」
「げ? なぜわかったんですか?」
「この天才にかかれば、造作もないことだ。それに恋バナなんて体のいい見せかけだ。どうせ同僚の結婚とか、愚痴と嫉妬が大半で、最後に『チャン・オカムラ』の甘い歌声で慰められて、酒に溺れて朝まで号泣だろが!」
 まあかくいう俺も『YUIKA』ちゃんのPV見ながら小説書いて、『チャン・オカムラ』の恋愛ソング聞いて号泣してるからな。

「な、なぜそれを!」
「だから言っただろ? 俺は天才だと! お前が編集として無能だから俺の作品は世にでないのだ!」
 俺が「犯人はお前だ!」的な感じで、白金を指すと「うっ!」と漏らす。
 だが、ひと時の沈黙の後、不敵な笑みを浮かべた。

「そんなこと、この超カワイイ白金ちゃんに言っていいんですか?」
「は? この世でちゃんづけは『世界のタケちゃん』と『チャン・オカムラだけでいい」
 異論は認めない、絶対にだ。
「まあ、それに異論はありませんが、これを見てでもですか?」
 白金はスマホを取り出し、ある画像を俺に見せた。

「こ、これは……」
「そうです」
「なんだおまえが変なおじさんか?」
「違うわ! さっき言ってましたよね、『聖夜の巡回』とかなんとか?」
 俺の眼に映るのはアイドル声優の『YUIKA』ちゃんだ。
 しかも白金とツーショット。クッソうらやましい。

「おまえ、これ加工しただろ?」
「んなわけないでしょ! めちゃくちゃ自然な写真でしょが! 先月、東京のイベントで会いました♪」
「マ、マジか? 生の『YUIKA』ちゃんに会ったのか?」
「ええ、いいでしょ?」
 俺も連れて行ってくださいよぉ~ 白金さん。

「なんのイベントだ? ライブか?」
「違います、我が博多社の作家さんの作品がアニメ化されることとなり、『YUIKA』ちゃんの出演が決まったのです。その制作発表会にお邪魔したとき、気軽に写真をとってくださいました。生の『YUIKA』ちゃん、可愛すぎて萌えましたぁ」
「俺だったら萌え死にだ……なんだったら転生して『YUIKA』ちゃんの犬になりたい……」
「キモッ……あ、ちなみにこのアニメ化に成功された作家さんがこちらです」
 白金が写真をスワイプさせると、その作家と思わしき輩が我が麗しの『YUIKA』ちゃんとWピースしている。
 なんてことだ、キモオタ中年が『YUIKA』ちゃんと同じ空気を吸うことすら許されぬというのに!


「ちょ、まてよ!」
「いや、似てないですよ……」
「つまりあれか? こいつはアニメ化したから『YUIKA』ちゃんとツーショットを撮れたのか?」
「まあそうなるでしょうね」
 ロリバアアは「ニシシ」と何かを企んでいる。

「だからDOセンセイも次の企画は、学園ラブコメの路線でいきましょう。いつの世の男子もウハウハなハーレム学園生活に憧れるのです。ヒットすればアニメ化の可能性もグンとあがります。そうなれば、声優の『YUIKA』ちゃんも先生のキャラに配役されるチャンスもあり、生『YUIKA』ちゃんとツーショットがゲットできるかもしれません」
 くっ! それはまたとないチャンスだ! 


「つまり、そのための高校入学。小説のために取材は必須と言いたいのか?」
「ええ、その通りです」
「だが……この年で入って見ろ? 同学年が年上という気まずい雰囲気になり、絶対クラスにとけこめない自信があるぞ!」
 そうだ。コミュ障で年上とか、どんな羞恥プレイだ。
「そう言うと思い、対策は既に盤石です」
 ピンと人差し指を立てて見せる。

「なんだ? そんな都合のいい高校がどこかにあるのか?」
「はい、私の出身校に通信制があります」
「通信制?」
 聞いたことのない言葉だ。
「はい、それならDOセンセイのようなクソメンタルでも、二週間に一回の授業とレポートさえ出せば卒業までこぎつけますよ」
 クソメンタルは余計だ。
「ふむ……」
「どうです? やります? 『YUIKA』ちゃんとのツーショットのために?」
「確かにそれは魅力的だ。だが通信制というものでは、そもそも毎日、級友と交流を重ねることはできないのでは? 入学する意味があるのか?」
 俺は中学校の頃、3年間もぼっちだったというのに、2週間に一回の出会いで仲良くなれるとは思えない。

「ええ、絶対にあります! 友達がたくさんできて、卒業生でもあるこの私が保証します♪」
 そう言って、小さな胸を叩く白金。
「それが一番、信用できんけどな」
「……」

 こうして、俺の取材兼高校入学は決まったのだった。

 クリスマスイブの日、俺は編集の白金が提案した『高校への取材』……入学をしぶしぶ了承した。
 年が明けてから、さっそく白金と一緒に電車で高校へ見学に行くことになった。
 というか既に願書も記入済み、受験ばっちしなのだ。


「なあまだ着かんのか?」
 俺と白金は電車の時間を予め、決めた上で待ち合わせていた。
 車両と座席も『3両目の一番うしろ』と指定され、白金に出会うや否や「まるでデートみたいですね」と言われ、テンションはダダ滑りだ。
 ちなみに白金は天神経由なので、バスと電車を乗り継いで、50分近くは移動に時間を費やしている。
 それでもこのロリババアはニコニコと嬉しそうだ。

「あ、見てください。DOセンセイ! 田んぼがいっぱい!」
「どうでもいいわ。しっかし、遠いな……」
「まあまあ、いいじゃないですか? たまには田園に目を向けるのも。心が癒されますよ。ほら、『にわとりせんべい』でも食べます?」
 差し出されたせんべいを口に運ぶ。せんべいと言うよりは優しい甘みのクッキーに近い。
「安定のうまさだな……しかし、お前はいつも迷ったりせんか?」
「何がです?」
 スカートにボロボロとクズを落としているぞ、やはりガキだなこいつ。
「この『にわとりせんべい』の正しい食べ方だ」
 と言って、俺はお尻の部分がかけたせんべいを見せつける。
「どうでもよくないですか?」
「よくないだろ? 顔から食べたら『なんかかわいそう……』とは思わんか?」
「はぁ? ……めんどくさ!」
 そう吐き捨てると、視線を窓に戻す白金。
「……」
 やっぱ、このつぶらな瞳のにわとりさんを食べると毎回、悲しくなる……。うまいけど。
 だが、一言いっておこう。
 おほん……にわとりせんべいは福岡市民及び福岡県民のものだ!
 東京みやげと勘違いするな!

   ※

「でも、なんか今日は遠足みたいで楽しいですね♪」
「楽しかねーよ、だいたいお前にとって遠足なんてイベント、どんだけ昔の話だ?」
「エ、ワタチ、ムズカシイコト、ワカンナ~イ」
 今日は寄り目か……芸人になればいいのに。
「はいはい、とりあえず死ね」
 そうこう言っているうちに目的地についたらしい。
 白金が立ち上がって「降りましょう」と促す。 
 駅の名は赤井駅。


「さんむっ! なにここ? ちょっと市外に出ただけで気温十度以上下がってるだろ!」
「確かに寒いですね……まあ山に囲まれてますし、天神みたいにビルや人が密集しているわけではないですから、体感温度はさがりますよね」
 体感温度ってレベルじゃねーぞ!
「さあしゅっぱーつ!」
「今からキャンセルは有効か?」
「残念。もう期限切れですね」
 小鬼が!


 駅を降りると、いつもは嫌々通っている天神とのギャップがすごかった。
 見当たす限り、山と住宅地のみ。
「な、なにもないぞ、ここ……」
「まあ市外ですし……でも、ほらあそこにはショッピングモールの『チャイナタウン』と『ダンリブ』がありますよ」
 『チャイナタウン』は主に中国地方から発展しているチェーン店。
 『ダンリブ』は福岡市とは敵対関係にある北九州市からなるグループだ。
 福岡市はおしゃれな先輩がいる街。
 北九州市はちょっとヤンチャな後輩がいる街。
 そう思えば、敵対する理由がわかるでしょうか?


 赤井駅は両ショッピングモールに挟まれた状態だ。
 北が『チャイナタウン』、南が『ダンリブ』といったオセロ状態。
 きっと赤井駅周辺の人々が足を運ぶという利点のみで出店しているように見える。
 つまりは、その地の住民しか利用しない。


「おい、ここの住民は娯楽なんぞ皆無なのではないか?」
「偏見ですよ、それ……」
「じゃあ、帰りに『チャイナタウン』と『ダンリブ』に下見しましょうよ」
 目を輝かせる白金。俺をお前の彼氏なんぞにするな!
「なぜお前なぞとショッピングしなければならないのだ」
「まあいいじゃないですか。これも取材のうちです」
「けっ」


 駅に隣接したショッピングモールを抜けると、山に向かって真っすぐと細い道路がある。
「あれはなんていう山だ?」
「さあ、なんでしょうね?」
「それぐらい調べとけ、取材なんじゃなかったのか?」
 しばらく歩くこと15分ほど……。


「おい、どんだけ歩かせれば気が済むんだ」
「あ、見えましたよ!」
 白金が指差すのは小さな看板『この先 三ツ橋高校』
 小さすぎて見逃すだろ、これ。
 生徒に優しくない高校だ。
「やっとか……」と思ったのも束の間、更なる難関が俺を待ち受けていた。

「なんだ、このクソみたいに長い坂道は!?」
「ああ、懐かしい~」
 アラサーババアが、子供のように校門の前でうさぎのように跳ねまわる。
「ウザいからやめろ。それより長すぎだろ、この坂。それに生徒たちに配慮してないだろ、斜面が傾きすぎだ」
「通称、『心臓破りの地獄ロード』です♪」
 です♪ じゃねぇ!
「お前はチビのくせに、こんな坂道を毎回登っていたのか?」
「いえいえ、私は友達とバイクでしたよ」
 そんなチート行為が許されているのか。
 生徒いう名の垢BANしてほしかったですね、運営さん。

「卑怯だぞ、歩かんか!」
「別に卑怯じゃないでしょ。免許持ってたし」
 絶対闇ルートだ!
 こんな低身長なやつに免許がおりるわけないだろ! 試験官は眼科行け!


 そうこうしているうちに『心臓破りの地獄ロード』は終わりを迎え、複数の巨大な建物が見えてきた。
「あれはなんだ?」
「武道館ですね」
 校舎よりも前に目に入ったのは巨大な六角形の建物。
「なに、武道館? ここでいっちょ修業でもすんのか?」
「んなわけないでしょ! ここ、三ツ橋高校は部活に力を入れているんですよ。だから、体育系の建物はかなり充実しているんです」
「要約するとガチムチのホモガキどもが脳筋に特化して、新宿二丁目へと旅立つのだな」
 きっとこの武道館は、武道とは程遠く……。
 とてもいやらしい稽古、ハッテン場と化しているに違いない。

「いや、女子もいますけど……」
「じゃあ、あれだ。全員が百合に進化して、少子化に拍車をかける不届き者になり、世界破滅だな」
 そうだ全部女子が悪い。
 俺たち男に見向きもせず、やれアイドルだの、俳優だの……と比較しては幻滅し、仕方なく同性で疑似恋愛をしているのだよ、きっと。
「先生も悪口だけは一級品ですね……小説に対してもそれぐらいの情熱を持ってください」
「褒められても何もやらんぞ」
「これは嫌味ですけどね……」
「……」

 武道館を抜けるとY字型の校舎が見えてきた。
 広い玄関の前にはたちを待っているかのように、長身の女が一人立っている。

「あ、蘭ちゃん、おっひさ~!」
 白金は蘭と呼ぶ女性を見るや否や、走り出し突撃した。
 胸部目掛けて、ロケット頭突き。
 女はひょいと軽くかわしたすきに、白金の顔面に右フックカウンターをお見舞い。

「いっだい~ うわ~ん!」
「お前から先にやってきたんだろがっ! 正当防衛だ、日葵」
「ひ、ひどい……ぐへっ!」
 白金よ……短い付き合いだったな。
 骨ぐらい拾ってやるぜ。これで高校入学も阻止できる!

「おい、お前が入学希望者か?」
 そう言って仁王立ちしている女性は、サテン生地でツルピカの紫ボディコンだ。
 『巨大なメロン』を重そうに両腕で支えている。
 こんなクソ寒いのに、胸をおっぽり出すとは……昨年末に天神で出会った痴女先生以上だな。
 それにしても、怖い顔だ。
 威圧的に俺を睨んでいる。
 か、帰りたい……。

「名前は?」
「あ、はい……新宮 琢人です。17歳です」
 俺がそう言うとボディコン女は顔をしかめる。
「お前が17だぁ?」
「そうですが……」
 長身のためか、腰をかがめて俺の顔を覗き込む。
 まるでグラビアのポーズだな。巨乳がブルンブルン揺れて、キモいからやめてくれ。

「ふむ、つまりお前は本来なら高校二年生というわけか?」
「本来? その定義がどこから来ているかはわかりませんが、俺はこれでも社会人です。そこらの子供っぽい学生と一緒にしてもらっては困ります」
「……」
 するとボディコン女は目を見開いて、黙り込む。
 フッ、やはりこの天才の前じゃ、大人様はいつも論破されまくりだな!

「だぁはははっははは!」

 腹を抱えて大笑いする。
 あごが外れそうなくらい口を大きく開けて、女とは思えないくらい野太い声で笑う。
 げ、下品な女だ!
 それになんか酒臭い。酔っぱらっているのか?
 のどちんこが丸見えだ、恥ずかしくないの?

「なにがおかしいのですか?」
「お、お前は……クックク……ど、ど、どうしようもないクズだな!」
 スクラッチしてんじゃねーYO!
 あー苦しいと腹を抱えて、床で笑い転げる。
 まあその隣には白目をむいたロリババアが倒れているのだが。
 俺はこの時思ったね、こんな大人にはなりたくないYO! とな。

「じゃあ案内しよう」とボディコン女が気絶した白金の首根っこを片手で掴み、廊下を歩く。
「あの、あなたは一体……」
「ああ。紹介がまだだったな。私は一ツ橋高校の責任者でもあり、日本史の教師。宗像 蘭先生だぞ♪」
 自分で先生言うな。
 俺が認めるまで、お前はただの痴女だ。

「そうですか……あの、宗像先生はそのロリババアとは同級生と聞きましたが……」
「おまえ……今『ババア』って言ったか?」
 立ち止まって、俺に睨みを聞かせる。
 その顔っていったら、あれだよ。仁王像だよ。
「いえ……白金とはお友達だとか?」
「そんなお洒落な関係ではないよ……このバカとはただの腐れ縁だ」
 やはりアホとかバカで通っているのではないか、白金 日葵。

   ※

「着いたぞ、ここが一ツ橋高校だ」
「え、これが?」
 めっちゃ小さな事務所だ。
 しかも扉もボロボロ、中をのぞけるように四角い小窓があるんだけど、ヒビが入っとる。
「この部屋だけが一ツ橋高校なんですか?」
「ああ、その通りだ。白金から聞いているだろうが、あくまでも三ツ橋高校の姉妹校であって、本校一ツ橋は校舎を持たない」
「では、一体どうやって勉学するのです?」
「そのためのラジオだ!」

 ニッコリ笑って、扉を開く。
 軋んだ音を立てる。
 まるで、ホラー映画の開幕シーンのようだ。

 俺は奥にある茶色のソファーに通された。
 まだ白目をむいているロリババアは無残にも床に捨てられた。
 テーブルを間に挟んで、反対のソファーに宗像先生は腰をかける。
 その際、言うまでもないが、宗像先生のおっぱいがぼよよんと跳ね上がる。

「白金から話は聞いている。じゃあ、願書だしてくれ」
 え? 見学じゃなかったの?
「はい……」
 俺はバッグから茶封筒を取り出し、テーブルの上においた。
「ふむ……」
 宗像先生が書類を目を通している間、俺は事務所内を見渡していた。
 殺風景で、職員も誰一人いない。
 こんな小規模で百人以上の生徒がいるとは思えんな。

「おい、新宮」
 呼び止められて、視線を合わせる。
「書類は全てそろっている。合格だ」
「は?」
「だから合格だ、これでこの春から晴れてお前は一ツ橋高校の生徒だ」
 ファッ!
「え? 入学試験はないのですか?」
「ないよ、そんなもん」
 キョトンとした顔で、先生は俺の反応を待つ。
「だ、だって普通は試験があるでしょ? せめて、国語、数学、英語くらいは……」
「ねーよ、んなお利口な学校じゃないぞ、ここは!」
 じゃあなんだよ! 二十字以内で答えてみろ!
「マ、マジですか……」
「大マジだ」

 バカみたい……俺、年末からめっちゃ中学校の教科書、復習してたのがバカみたい……。
 こんなことなら年末のタウンタウンの『絶対笑えTV二十四時間』見ればよかったよ。

「新宮、お前はなにか勘違いしているぞ」
「勘違い?」
「ああ、そうだ。ここは不良やひきこもり。そう言ったクズどもが通う場所であり、勉学なんてもんは二の次だよ」
 おい、仮にも自分の生徒だろ? 大丈夫か、この教師。
「じゃあ、何が一番なんです?」

 俺の問いに、宗像先生は黙って立ち上がるのみ。
 近くの棚から汚れたマグカップを取り出すと、インスタコーヒーを入れ、お湯を注ぐ。

「ほれ、外は寒かったろ。飲め」
「い、いただきます……」
 すげぇ、まずそうだな。このコーヒー。
「何が一番か……といったな」
 コーヒーを啜りながら、宗像先生は窓の外を見る。
「はい。俺はガチガチに勉強するものだと思ってました」
「フッ、まあそれはよい心がけなのだろうがな……だが、ここではお前の常識は通用せんだろう」
 なんだ、その答えは……。

「いいか、ここはお前みたいな集団生活に馴染めなかったクズどもの通う高校だぞ? 入学試験なんか設けてみろ? 誰も来ないし、本校はつぶれるぞ? お前だってどうせ中学生時代にドロップアウトしたくちだろう?」
「う……」
 的を得ている。だが、唯一的から外れたのは、中学生ではなく、小学生時代でドロップアウトしているところだ。
 俺の腐りレベルがあがった♪

「ほれ見ろ、その顔はお前がひねくれものである証だな。いいか、本校一ツ橋高校はそう言ったクズどもを卒業させることを第一にした高校だ」
 なんか俺、前科者みたいな扱い受けてない?
「で、ですが、俺は真面目で通ってます。勉学だって必要とあらば、やります! そんな不良とか一緒にしてもらわないで頂きたい!」
 宗像先生の目が鋭くなる。
「お前……『自分が特別だ』とか勘違いしてないか? 私からしたらお前みたいな歪んだ無職のニートも、髪を金色に染め上げたヤンキーどもも、全部一緒だ。社会不適合者というやつだ」

 悔しいが、正論だ。
 集団生活にガッコウという枠内に収まり切れない俺は、確かにドロップアウトした。
 その行為自体は、確かにヤンキーなど呼ばれる類と同じ行為を働いている。
 ただ、それが社交的であるか非社交的であるかの違いだろう。

「なあ、新宮……お前、なんでこの高校に入学したいんだ?」
 なぜかって、その問いには床で泡を吹いているヤツにでも聞いてくれよ。
「志望動機ですか?」
「んま、そう言い方もあるな」
 いちいち人を試すような行為をしやがって、このクソビッチめが!

「しゅ、取材ですよ……」
「……取材? なにを取材するんだ?」
「その、10代の男女関係における恋愛です」
「……」
 沈黙が辛い。
 だがそれを破ったのはまたもや宗像先生だ。

「だぁはははっははは!!!」

「な、何がおかしいんですか!?」
「だって、お前さ……ククク。教師に面と向かって、『ぼ、僕はリアルなJKと恋愛したいですぅ!』とか宣言したようなものだろが!」
 そのあたかも、『ぼ、僕はキモい童貞ですぅ』みたいな話し方はやめろ!
 童貞は罪じゃない!
 俺を……男をぼっちにさせる女たちが悪いんだぁ!