「…それってもう二度と俊先輩と一緒にプレーできないってことですか?楓先輩はそれでいいんですか…」
意外だった。軽く目を開けると佐伯が悲しそうな顔をしていた。そんな顔を見るのは初めてだった。
「…嫌だけど、しょうがないじゃん」
楓はあの時の朝みたいに少しだけ強い口調だった。
「しょうがないって…まだ七月が始まったばかりですよ。それに、彰先輩が部活を休み始めたのって一ヶ月も前ですよ?さすがに大会には間に合いますよ。だから、彰先輩に伝えてください。無理しない程度に体は動かしておいてくださいって」
佐伯がスラスラと楓に向かって言った言葉は楓自身はおそらく聞いていない。楓はぼーっとしている様子だった。
「え、あ、うん。わかった」
多分半分聞いていて半分聞いていない状態だったのかもしれない。生半可な返事だった。
地元の駅の一つ前の駅に着いた時、楓が「用事があるから降りる」と言って電車を降りてしまった。