「…なんだよ…それ」
「言い訳になるかもしれないけど、僕も精一杯頑張ったんだ。でも、間に合わなかった。父さんに言われてから何年も研究してたけど…。まるで結果が出なくて…本当にすみません」
「俊。私が随分前に言ったこと覚えてるかい？」
朱里さんが俺の名前を呼んだので、俺は朱里さんの方を見て答えた。
「……覚えてます」
朱里さんの言いたいことは分かる。神社で言われた、『誰の意見よりも自分の考えを優先するかもしれない。俊と楓には、それでも彰の決断を受け入れて欲しい。』という言葉のことだろう。
俺はそれよりも芽吹さんに聞きたいことがあった。
「あの…芽吹さん…一つ聞いてもいいですか」
「…うん。」
芽吹さんは虚しそうに返事をした。
「彰…何か言ってましたか…｣
「…そういえば、よく分からないけどこれを預かってる。」
すると芽吹さんはどこかへ行き、数分して戻ってきた。芽吹さんの両手にはいつの日か楓が彰に向けて描いた海の絵だった。
「…それって」
俺が受け取る前に楓が飛び出してそれを受け取った。そして楓はその絵をじっと眺めていた。
「…楓。裏になんか書いてある。」
裏は真っ白なはずなのに黒いペンで端っこの方に何か文字が書いてあるのが見えた。