芽吹さんは「着替えてくるからちょっと待っててね」と言ってどこかへ行ってしまった。
数分してから白衣からオシャレな私服になって戻ってきた。それから俺たちは再びエレベーターに乗り、地上一階へ上がった。
「出てすぐ左ですので、これ。」
芽吹さんはそう言って朱里さんに家の鍵と思われるものを渡した。「僕はちょっと寄るところがあるので」と、つけ加えて。そのままエレベーターに乗って上まで行ってしまった。
朱里さんは「わかりました」とだけ言って歩き始めた。俺たちはそれについて行った。
病院の隣に住んでいるのは、何かあった時にすぐに駆けつけられるようにだろう。
その家と思われるところは二人暮しには少し大きな家だった。さすがは医者だ。
「朱里さんってここ来たことあるんですか?」
俺は朱里さんへ純粋な疑問を投げかけた。理由は隣とはいえ、迷わず真っ直ぐここに来たから。という理由も単純なものだ。
「うん、もう何度も来てる。でも、春斗の息子さんに、会うのは初めてだよ。」
確かに、芽吹さんは彰達のおじいちゃんの葬式にはいなかった。だから、俺も会うのは初めてだった。