「…って、こんな暗い話を聞きに来たんじゃないよね」
橋本さんは笑いながらそう言った。この人はよく笑う。
「芽吹に逢いに来たんだよね。全部、朱里から聞いてるよ。それなら地下に行くといい。多分そこにいるよ」
芽吹というのはおそらく息子さんの名前だろう。
橋本さんはポケットから缶コーヒーを取りだし、蓋を開けて飲み始めた。
「僕はもう少し、ここにいるから会えなかったらまたここにおいでね」
橋本さんはまた笑った。この人の笑顔はとても落ち着くし、なんだか太陽みたいな人だった。
「じゃあ朱里、また後でね」
橋本さんは朱里さんに手を振り、朱里さんもそれに応えるように手を振り、俺たちは再び病院の中に入って、エレベーターに乗り込んだ。
「おばあちゃん、私、あの人の言っている意味が分からないんだけど…」
エレベーターが地下一階まで向かっている途中、楓が朱里さんにそう聞いた。おそらく、あの言葉だけでは理解できなかったのだろう。
「…そのまんまだろ」
朱里さんの代わりに彰が答えた。