「……そうだよね。俊の言う通りかもね…。ごめん、焦ってた。」
楓は泣きそうになりながら俺にまた謝った。そんな楓を見たら思わず、あの時みたいに抱きしめていた。
楓もそっと俺の背中に腕を通した。
数分間その状態が続き、気づいたら俺の携帯から着信音がめちゃくちゃ鳴っていた。全く気づかなかった。
「電話、なってるよ?」
楓にそう言われたので楓を抱きしめていた手を離し、携帯を確認すると佐伯と彰と母親からの鬼電だった。
でも、そんなことは一旦置いておいた。
今はただ楓のための時間だと思ったから。そして、これは自分自身のための時間でもあった。
彰が病気だと知った日から楓のことは諦めたつもりだったけど、やっぱり無理みたいだった。でも、彰の病気が治るまでずっと隠しておくことには変わりはなかった。
「電話…出なくて平気なの?」
俺はすぐに首を縦に振った。
「そっちこそ泣き止んだか?」
話を変えたと同時にポケットにある携帯の電源を感覚で落とした。