疲れがたまっていたせいか、十時を過ぎると自然と目蓋が重くなり、うとうと眠ってしまった。
しばらくして、体を触る生き物の存在に気付き、薄目で相手を確認した。

「起こしちゃった? ごめんね」

「ぅ……。ナタ…リ……?」

お姫様のようなミニ丈のネグリジェを着たナタリが、僕のすぐ横で猫のように丸くなっていた。その可愛い小さな頭をゆっくり撫でる。

「メリーザは?」

「隣の部屋で爆睡してるよ。朝まで起きない、きっと」

「…………」

少し違和感があった。
ナタリの両目を見つめる。目に宿る不安。

「それにしてもメリーザってさ、口は悪いけど可愛いよなぁ。その辺のアイドルより、レベルが高い」

「っ!? 可愛…ぃ………」

茹でダコのように顔を真っ赤にし、照れている。

「自分から布団の中に入ってきたわけだし、何されても文句ないよね」

ナタリの体を引き寄せ、匂いを嗅ぐようにその横顔に顔を近づけた。

「あっ、ぅ……みゅぅ」

「僕は、ただの人間だし。バカだけどさ。二人を間違えることはないよ。例え、どんなに姿が変わってもね」

「……………」

「それに、こんな小細工しなくてもナタリと同じくらいメリーザも好きだから。やっぱり、僕は元の姿が良いなぁ」

「……………バレちっ…た」

ナタリの体は、数秒でメリーザに早変り。変身完了。潤んだ瞳で、僕を見続けるメリーザ。

「…………本当に浮気とか、ナタリを裏切ったことにならないんだよね?」

「はぁ~~、相変わらず気が小さい男だなぁ。大丈夫だって。ナタリも望んでることなんだから。さっき、こんなエロい下着までセレクトしてくれたし」

口から首筋、服を脱がして全身にマーキング。

「くす…ぐったいよぉ……。ひんっ」

抵抗する素振りはなく、甘い吐息だけがメリーザの口から漏れていた。でも、まだ少し震えていた。

「あぅ……。痛みには慣れてるけど、優しさにはまだ慣れてないから。だから、たぶん……上手く出来ないと思う。ごめん………」

「大丈夫。心配いらないよ」

「ナタリが羨ましい……。ずっとずっと前からハクのこと知ってるし。もっと早く会いたかったなぁ……」

メリーザの頬を流れる悲しい涙。

この小さな体は、子猫のようにか弱く、脆い。それなのに、所々刻まれた過去の傷痕が痛々しく……。どんなツラい過去を乗り越えてきたのか。


「私の心と体、ハクの好きにしていいからね。こんな傷だらけで……汚れた体で…ごめん………」

まだ涙を流しながら、それでも必死に笑いかける。僕の頬に触れるメリーザの唇。

「ごめん…ね……」

自然と溢れた涙が、メリーザの涙と混ざった。

「もう謝るな。メリーザは、少しも……汚れて…なんかいない…から……。とっても綺麗だよ」

「うれしい。ねぇ……。私を壊して。お願い」

ナタリを抱く時とは違う、支配欲のような黒い感情、衝動が沸き上がってきた。理性が飛ぶほど、興奮した。


◆◆◆◆◆◆【違和感】◆◆◆◆◆

公民館で、クリスマス会があった。
みんなでケーキを食べて、歌って、最後にお菓子が入った袋を貰った。楽しいクリスマス会が終わったので、帰ろうと玄関で靴を探した。

「あれ?」

靴がない。


似たような靴はあるけど、僕の靴じゃない。当然、裸足では帰りたくないから、僕はその『似た靴』を履いて帰った。

家に帰ると、パパとママが家にいた。


「ただいま」

「おかえりなさい。クリスマス会はどうだった? 楽しかった?」

「うん。楽しかったよ」


あれ?

ママが、少し違う。

髪型? 服装?

いつもと何かが違う。


「こっちへ来て、パパと一緒にテレビを見よう。今、面白いアニメやってるよ」

パパも少し違う。


ママとパパ………。似ているけど、何だか違う。

洗面所に行って、手洗いをした。タオルで手を拭きながら、鏡を見た。


あ…れ…………。

僕って、こんな顔だっけ?

似ているけど、何かが違う。