高級ホテルのスイートルーム。宝くじでも当たらない限り、自分とは一生縁のない場所だと思っていた。それが、今は現実に………。

「あぁ~~、生きてて良かったぁ。フカフカぁ~~~、このキングサイズのベッド。一生、このまま寝ていたい!」

「スゴい夜景……。ふわぁ~……オモチャみたい」

「二人とも大袈裟だなぁ。お腹すいたろ? 何かルームサービス頼もうよ」

「うん。メリーザってさ、色んな付き合いがあってスゴいね……。私なんて下界に天国の知り合いなんていないし………。コミュ障の私とは大違い」

落ち込むナタリにメリーザが抱きついた。

「私がいる。それで十分だろ?」

惚れてしまいそうな甘いセリフ。

「んっ……耳たぶ、噛んじゃ……ダ…メ」

なぜか、服を脱ぎ出した二人を放置し、改めて周囲を見渡す。何度見ても凄い部屋だ。悔しいけど、燃えた我が家とは比較にならない。卑怯なほどのレベルの差。

普通に泊まったら、一体いくらとられるんだろう。

「?」

「……………」

下着姿でこちらを見つめている。メリーザが僕に何かを訴えていた。

「どうした?」

「何でもない。気にするな」

…………何でもないことないだろ?
そんな、泣きそうな顔してさ。

その言葉を飲みこみ、誤魔化すように、しばらく部屋を探索した。


◆◆◆◆◆◆◆【懺悔】◆◆◆◆◆◆

廃墟と化したラブホテル。おばけ屋敷のよう……。もう何年も放置され、壊される気配もない。巨大すぎるゴミ。
そんな場所に俺は、引き寄せられた。

埃だらけのホテルの一室で、安い酒を浴びるように何時間も飲む。
時間の感覚がひどく曖昧で、今が夜なのか、朝なのかさえ分からない。
まぁ何時だろうが、これから死ぬ自分には関係ないが。


ガシャッッ!!

目の前に積んだ空き缶やビンのタワーが、崩れた。


「……………」


そろそろ終わりにしよう。

俺は、ふらっと立ち上がる。
おぼつかない足。吐き気。体は、確かに酔っているが、頭は妙に冴えていた。
酔った自分を、もう一人の自分が冷静に見ているような……そんな奇妙な感覚。
その感覚を無視するように俺は、割れたガラスの中から一つ選び、躊躇なく喉元をかき切った。

首から流れ続ける赤い水は、腹を通過し、足から床へ。

温かい……。

俺は、血がたまった床に横になる。
そうすると、昔の記憶がよみがえってきた。

まだ幸せだった頃。大切な人が、そばにいて。俺が、一番笑っていた時期。

マナ……。ごめんな。
こんな不甲斐ないパパを許してくれ。
天国でさ、ママと三人で、今度こそ幸せになろう。

……………………………。
……………………。
……………。
………。

一時間後。
俺は、血だらけの服でホテルを出た。朝日が、眩しい。


俺は、死ぬことを拒否された。もっと、もっと、もっと。生きて苦しめと。

神は、残酷だ。