ごわごわした赤竜の乾燥した皮を両手で捲り、小さく鼓動する黒い包みの中から長細い茶瓶を四つ取り出した。
それを仲良くメリーザと半分こ。

「これがギフトかぁ……。本当にこんなヤバイ物、存在してたんだな」

「うん。私も前に来た時にその存在を感じるまでは信じてなかった」

「うぇへっへへ~。私は影の王。裏表すべてに唾をつけてる。だから欲しいモノは、何でも私に集まってくるシステムなんですよ~」

「「へぇー」」

何言ってんだ? こいつ。


私やメリーザみたいな逃亡者。許可を得ず、勝手に人間界に不法侵入した輩は、強制的にその力を制限される。今、私達は天界にいるときの1%も力を使えない。もちろん、上にさえ戻れば一週間ほどで元のような凄い死神ちゃんに戻れるけど……。それじゃあ、遅すぎる。
だから、人間で言うところの強力な眠気覚ましが必要。その薬が、『ギフト』。
これさえ飲めば、本来の力を発揮できる。

「一本で、今の十倍。二本で、三十倍って感じっす。まぁ、それなりの副作用は覚悟して下さいよ~。死んでも私を恨まないでね」

「ありがとう。この礼はするから」

猫耳オヤジは、ピンク色の派手なサングラスをかけ、鍵付の金属棚から百年物のコニャックを取り出し、それをラッパ飲みした。

「ぷっひぃ~~~。効くぅ~。………礼なんかいらない。だから、ここへは二度と来るな。二度と、だっ!! この疫病神」

「………………」

猫耳オヤジを死なない程度に痛め付けた後、店の外で私とメリーザは早速一本目を飲み干した。

ドクンッ!

ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!

体から溢れる懐かしい神の力。
人差し指で、目の前の風景を切り裂くと、その裂け目から天の国への最短ルートが現れた。相変わらず、眩しすぎて目が痛い。

「仲間の天使や神をぶち殺してもいいのか?」

「私の仲間は、メリーザだけだよ。それに忘れてない? 神は神でも私は、死神。私達に殺されるレベルなのが悪いんだよ」

ニコッと笑うと、メリーザは「お前こそ、悪魔じゃん!」って、少しひいてた。


いいの。悪魔でも。

彼を助けられるならーーーー。


◆◆◆◆◆【ギフト】◆◆◆◆◆

祖母から貰った御守り。

「お前が、本当に困った時にこの御守りを破りなさい。一度だけ、お前を助けてくれるから」

なかなかなかった、『本当に』困った時。

でも、それは突然訪れた。

好きな人が出来た。

どうしても諦めることが出来ない。

だから、破いた。御守りを。

……………………。
……………。
………。


「どうしたの?」

「なんでもないよ」

アニメの女の子と話す毎日。

「手を出して」

「うん」

冷たい。でも、温かい。テレビ画面に触れた僕の手に彼女の小さな手が重なる。