焦げ臭い匂いでハッと目が覚め、飛び起きた。一階に駆け下り、リビングを確認すると可愛いエプロン姿の死神と悪魔がいた。キッチンで、仲良く朝飯の準備。基本的に料理を作っているのは、メリーザでナタリは横から色々と指示を出していた。

「…………」

その夢の続きのような微笑ましい光景は、僕に究極の癒しを与えた。

何事もなかったかのように静かに二階に戻る。
ベッドに横になると突然、金縛りにあった。

声も出ず、指一本さえ動かせない。そんな人形と化した僕の眼前にテレビでしかお目にかかれないレベルの美少女が、無表情で僕を見ていた。

きっと、この女はナタリの姉………。直接見たことはないが、前にナタリから聞いていた容姿と指を鳴らす度に起こる人間離れした力による部屋の模様替え。ほぼ、間違いないだろう。今、この部屋は戦争中の廃墟のような場所に変わっている。

「ここは、地獄。まぁ……まだまだ上の方だから、ユルいけどね~」

「何しに来た……」

声だけは出せるようになっていた。
そんな僕の体に飛び乗る猿の化け物のような獣達。何の躊躇もなく、僕の服をその鋭い鉤爪で引き裂くと、鋭い歯で腹肉を食い破り、内臓で遊び始めた。

「がっ、ぶ」

体は動かせず、それでも想像を絶する痛みだけはあった。

「妹はね、アナタみたいな人間と仲良くする時間なんてないの。……正直、アナタの存在って大迷惑なんだよね。まぁ消すことは簡単だけど、それだけじゃ私のイライラは治まらない。だからね、アナタに無限地獄をプレゼントしようと思って、私自らわざわざ来たってワケ」

痛みはあるが、なぜか気絶や死ぬことが出来ない。これもこの女の力なのか。急に痛みが消えると、食い散らかした内臓も元に戻っていて、腹には傷跡一つなかった。

「話でしか聞いてなかったけど、あんた最低の糞女だな」

無表情の女が再び指を鳴らすと、僕の体は人体発火を起こし、足先と指先から徐々に燃え広がった。
自分が焼ける臭いに吐き気までプラスされた。

「お前が想像も出来ない苦しみ、痛みがまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだあるんだよ。それが、永遠に続くの。キツイなんてもんじゃないからね。でも二度と妹と関わらないって約束するなら、この地獄を終わらせても良い」

「ぐぁあぁあああ!!!!」

「選ぶのは、お前。さぁ、答えなさい」

先ほどのように焼け爛れた体は、元に戻っていた。破壊と再生を繰り返す………。確かに無限に続く地獄だ。

「その前にさ、この体を自由にしろ。お前のその綺麗な顔、思い切りビンタしてやる。今までナタリから笑顔を奪い、幸せを踏み躙ってきたお前を僕は絶対に許さない」

「……………ほんと、噂以上のバカな人間ね。何の価値もないわ。お望み通り、永遠の地獄へ招待します」

女が指を鳴らすと、この部屋ごと奈落へと堕ちていった。


ナタリ……。

メリーザ……。

こんな別れも言えない最悪な最期で、ほんとごめんな。

許してくれ。


◆◆◆◆◆【やまない雨】◆◆◆◆◆


雨が、降っている。
もう何ヵ月も。

青空が、恋しい。子供たちが、外で元気に遊んでいる姿を想像する。

今は、子供たちの苦しく喘ぐ声しか聞こえない。

「……先生。医者は、神ではありません。救えない自分をこれ以上責めないで下さい」

「……………」

「それに随分お疲れのようです。顔色が悪い。少しお休みになられては、どうですか?」

「………………」


『どうして、キミは僕を刺した?』

「さぁ……そこのベッドに横になって。先生が寝るまで、私が添い寝してさしあげます」

当分……。

「だから、私だけを見て。アナタは、誰にも渡さない。子供たちにも」


雨は、止みそうにない。