【 死神ナタリと魔王の娘メリーザの仲良し日記~ 】

「やっと……お姉ちゃんから解放された。もう手が、ぷるぷるの真っ赤。うぅ~、痛ぃ……」

でも明日からは、バカな悪魔を討伐する為、しばらくお姉ちゃんと離れ離れ。嬉しいような、寂しいような。複雑な気分。

先週、悪魔が私達の国に無断で侵入したらしい。ここ百年は、悪魔も静かにしてたのに……。最近、魔王の娘が父親に代わり、軍隊を指揮するようになった。もう、やりたい放題。早く侵攻を止めないと、過去のような全面戦争に発展する恐れがある。



私は自分の兵隊、約一万の天使を引き連れ、天の国の端に向かった。国境近くまで行くと、ねっ……とりと体にまとわりつくような不快な闇が、辺りに漂い始めた。

闇の中で私達を待ち伏せしているんだろう。

「昼夜問わずの移動で、疲れたでしょ? あなた達は周囲の警備を固め、少し休んでいなさい」

「はい。畏まりました」

大天使達は、頭を下げると周囲に散らばる。私は、霊獣グリフォンにまたがると、風のように闇の中を突き進んだ。


急に闇が晴れると目の前にロリータドレスを着た少女が現れた。

「なんだ? お前」

「ここは、天の国です。早く去りなさい。さもないとあなたを消さないといけない」

「やってみろよ、糞が」

これが、私とメリーザの感動的な出会い。

…………………………。
…………………。
…………。

私は、左右の手に双剣を持ち、目の前の悪魔に狙いを定める。

悪魔は、座っていた巨石から音もなく降り、小さく闇の詞を口にした。

モリモリモリ………。

赤土が盛り上がり、地面の割れ目から見たことのない黒刀が姿を現した。
その割れ目からは、今も地獄の黒炎がチラチラ見えている。その刀身を愛おしそうに指先で撫でている。

「どうして、こっち側に来たんですか?」

「お前には、関係ない。さっさと、死ね」

「そうですか……」

私は、神速で悪魔との距離をつめると刃を振るう。この悪魔は、無音で私の攻撃をかわし、私の背後に回ると頭上から黒刀を振り下ろした。

地面が遥か先まで裂けた。凄い攻撃力。

私が、ギリギリで攻撃を回避した先に、ケラケラ笑う足の生えた、すっごく気持ち悪い木箱が数個設置されていた。

この悪魔。私の動きを先読みしてる……。


「ババーーーーん!!」

笑う箱の口が開くと、周囲を吹き飛ばす大爆発が起きた。

私は、隠していた六枚の羽根を全開し、爆風よりも速く、空に逃げた。

その空には、鎧を着た黒龍が待ち伏せしていて、私に真っ赤な炎を浴びせた。
持っていた双剣がどろどろに溶ける。炎の勢いが凄まじく、両手を前に出し、造り出した神の防御壁も簡単に炎に押された。容赦なく、地面に叩きつけられた。

「っ……」

受け身が不十分で、中の臓器を少し損傷したみたい。左手もヤケドを負い、しばらく回復に時間がかかりそう。

幼い、私と同じくらいの悪魔は無言で倒れている私を見ていた。黒刀をだらんと下げ、攻撃する意思を感じなかった。

「もしかして、この程度で勝ったつもり? 笑わせないで。私は、これでも神(見習い)なんだから」

私は再び、天から神器を呼び出した。神々しく光を放つ、長い銃を手にする。

「勝ってない。お前は、ぜんぜん本気じゃないから…………。それより、さっき攻撃した時さぁ、一瞬躊躇して剣の向きを変えたよな? なぜ、あんなことした? あれがなければ、結構なチャンスだったのに」

「あなたが、その服の中に何か……隠してた。何かは分からなかったけど、大事にしてたみたいだったから」

悪魔は上着の中に手を入れる。取り出したソレを優しく握っていた。

今も小さくチィーー、チィーーーと鳴いている。どうやら、ドラゴンの赤ちゃんみたい。

「コイツが、母親から離れていなくなったから探してた。可愛いだろ? 上空を旋回してるあの漆黒のドラゴンがママなんだ。大きくなると可愛さゼロだけどな」

私に近付くこの悪魔は、慈愛に満ちている。私は、悪魔がこんな優しい顔をすることに驚き、動揺した。攻撃を仕掛けるタイミングを完全に逃した。

「この子を助ける為に危険を冒してまで、こっち側に来たの? あなた以外に他の悪魔はいないみたいだけど……。一人で来たの?」

「まぁ…………うん。そんな感じかなぁ。私に仲間なんかいない。必要ないし」

寂しそうに笑う幼い悪魔。嘘を言っていないことは、その表情からすぐに分かった。


仲間がいない?

じゃあ、軍隊を指揮して最近暴れているっていう情報は嘘なの?

誰が………。

そんなデタラメな嘘を?


その時、私達の前に双子の大天使アギスとアザマが現れた。

「どうされました? ナタリ様。さっさとその悪魔を殺して下さい」

「そうですよ~。早くソイツの腐った臭~い首を持って帰りましょうよ~」

両者のその顔は、隣にいる悪魔とは比較にならないくらい、何倍も胸くそ悪い笑顔をしていた。


◆◆◆◆◆【特別な関係】◆◆◆◆◆


「よぅ! 久しぶりじゃん。また帰ってきたの?」

地元の長野に帰省した時、偶然立ち寄ったコンビニで高校時代の女友達に会った。

「また……ってなんだよ。今は、夏休みだからさ」

「ふ~ん。大学生は、お気楽だ」

「そうでもない。今は、卒論で忙しいし。明後日には、また帰る」

「明後日? もっとゆっくりしていけばいいのに」

酒とツマミだけ買って、店を出ようとすると

「あっ! 待って。これ、持っていきな」

赤い傘を渡された。

「……いや、雨なんか降らないでしょ」

苦笑いしながら店を後にした。



「あっ」

店を出て、すぐに雲行きが怪しくなり土砂降りになった。そういえば、アイツには昔から特別な力があった。人間を越えた力。

どっちが、お気楽だよ。

「お前が死んで、もう三年……。似た者同士だよなぁ。また懲りもせず、お互い会いに来て…さ……」


赤い傘の中、アイツの優しい匂いがした。苦笑いと落ちる涙は、毎度のこと。